第13話 救出作戦③
それぞれのHPが徐々に上がり始める。上限まで達した頃、皆の精気が戻って来たように見えた。
「おお回復してきた!」
「すごい!元気が戻ってくる」
「こっちのオッサンはなかなかやるな」
『バチン!』
『イテッ』
「こら!ユータ!あんたって子は」
「すいません中村さん」
「いえいえ。お子さんは素直で元気が一番!」
「みなさーん!こちらにお座りください!」
テーブルと椅子も取り出し、湯気の立つコーヒーと子供用のジュース、そして新鮮なサラダと出来立てのパスタを並べ、皆を誘導した。
「事件以降、何も食事をとられてないと思って」
「ゆっくり召し上がってください」
「主任!すごい!」
昨日、AIと朝まで打合せを行った時、救援物資を運ぶ手段、提供する為の荷物を収納する手段、劣化も防げる必要な手段として、ファンタジー世界で登場するようなアイテムボックスを開発してもらっていたのだ。
自衛隊みたいに自己完結型のシステムと車両があれば問題ないのだが、炊き出し材料や救急アイテムを詰め込むにも、個人で行う救出作戦にリュックサックでは限界がある。
演算の間、自宅のキッチンでコーヒーをドリップし出来立てのパスタを作り、完成したアイテムボックスに収納して準備を進めていた。
その異次元空間収納のおかげで、アイテムボックスの中は時間が停止している。
そのお陰で、現場で取り出し、出来立てのまま提供できるのだ。
「いただきます♪」
「頂きます!」
「頂きます。合掌」
「……イタダキマス……」
『バシッ』
「痛てっ」
「ちゃんと聞こえるように言いなさい」
「イタダキマス」
『パク……。!!!!●×▽♡■♪』
「え??なにこれ?美味しすぎる!」
「うっ・・まー♡!!」
そこで父親が暴走する。
「アルデンテですね!」
「なんと言うか、青森産ガーリックの香ばしさと純度100%のバージンオイルが鼻孔を突き抜けて……ぁぁもう……」
「しかもアクセントの赤唐辛子が全体の味を引き締め、さらに食欲を増進し……」
「そして主役である具材の海鮮がナントも新鮮で絶妙の火加減でプリプリしてます!」
「さらに魚介のうま味を引き出すため白ワインで蒸すことにより香りも付与し」
「潮風漂う磯の風味を相乗効果に乗せ」
「少しあふれ出た魚介の出し汁をオリーブオイルとパスタの煮汁で乳化して、うま味を凝縮してある」
「うま味とオイルのコクをマリアージュへと進化させた至極の一品!」
「だが、この隠し味的な香りはなんだろう」
「このパスタの他とは違う香ばしさ……」
「あ!……」
宮本将司、優美の父親である彼の趣味は一人歩きのグルメであった。
数々の料理店を一人で食べ歩き、研究をするのが勇逸(唯一)の楽しみなのだ。
そんな彼が麟太郎の作ったパスタのヒントに気付いたのである。
彼が解析した隠し味的な香りの正体とは、……昆布。
「伊庭さん。この隠し味的な香りは燻製と昆布では?」
「え?……わかりますか。……参りました」
「麟太郎。どういうことだ?料理しない俺にとって何言ってるか分かんないぞ?」
「お父様のご慧眼に感服しました」
「やっぱりそうでしたか!」
「お父さん!説明して!」
「お前が姉ちゃんの隣で おとうさんって呼ぶな!」
「ユータ!!いいかげんにしなさい!」
「わ、私は主任が隣に居て、お父さんって……きゃ♡」
妄想が激しい宮本優美である。
「このパスタの胆は、……昆布締めしたニンニクだと確信しました」
「その昆布締めニンニクを煙りで燻す燻製の工程を経て、さらに乾燥させてスパイスミルでパウダー状にし、仕上げに振りかけてあるんですよね?」
「その通りです。まさか見破れるとは……」
「フフフ素晴らしい。こんなパスタは銀座の超一流店でも出会うことがない」
「感服致しました」
「気恥ずかしいです」
そんな和んだ雰囲気の中、彼らが笑顔を見せて安堵している表情を浮かべているのは間違いなく、救出の目標は一応達成したのであろう。
「いっぱい食べろよーユータ君!」
麟太郎とN先輩は苦笑いし、みんなの食事姿を見ながら安堵した。
――――――――――――――――
「あー美味しかった♪主任って料理も得意なんですね@@」
「得意ってほどでもないけど趣味でチョットね」
「いやいやプロ並みですよ、とーっても美味しかったです。また食べたいな♪」
「ははは」
N先輩が不機嫌になる前に少し話題でも変えたほうが良いかなと思い、事件の経緯を聞いてみることにした。
「でも優美ちゃん達はどうしてココに来たの?」
キャンプ場から3kmも離れた場所に来ていたのは不思議で仕方なかったからだ。それにどうやって避難出来たのかも気になっていたのだ。
「それは……」
優美はなぜか弟の優太をジーっと見て答えた。
「ユータが謎のポーズをとり小動物公園に行きたいと言い出して」
「しょうがなく行ったのですが」
「そこから先は私が説明しましょう」
優美の父親である将司だった。
「例のステータスのせいです」
「ステータスの?」
「ええ。私たち大人でも困惑しているステータスという概念です」
「ましてや小学生の男児には刺激が強すぎて……」
「まるでヒーローゴッコのようにはしゃいでしまいまして……」
「香ばしいポーズのあと謎のテーマソングを歌いながら小動物を追いかけて歪の中に入ってしまいました」
「それを家族で追いかけるようにこの世界に入り込んで遭難し、今に至ります」
父親の将司さんの説明に納得した。
(子供にしてみたらテレビの戦隊ものやゲームやアニメの主人公が自分と重なり、ヒーローとなったような気分になるし、そりゃ香ばしい能力も試したくなる)
<マスタも試してました>
(……ましてや、家族で遊びに来て浮かれてるさいちゅ……)
<マスタも>
(うるせぇぇえ。今そんな事どうでも、ってか俺は子供じゃないぞ)
<でも、マスタも子供と行動がおなji>
(あ~-ぁぁぁあ!聞こえない!聞こえない!き・こ・え・ま・せーん)
麟太郎は自分の事を棚に上げつつ、質問を続けた。
「ゴホン。そうでしたか。でもこの場所まで避難するのは大変だったでしょう」
「はい。狼や熊のような怪物が追いかけてきて必死で逃げました」
「私には土魔法の能力があったので地面から防御壁や堀を作り出し」
「モンスター達が足止めされてるうちに山肌まで逃げてきました」
「俺も光の矢で反撃したぞ!」
『バシッ』
「痛てっ」
「あんたって子は。反省しなさい!」
「妻の能力は水魔法でしたので逃げる途中堀に水を張ってもらいながら時間稼ぎもしてもらい」
「洞穴の中では水分補給のための水を生成し、なんとか助けが来るのを待っていた次第です」
「でもほんと発見できて良かったです」
「中村係長、伊庭主任♪ほんとにありがとうございました」
「いえいえとんでもないです」
「さて、ここに居てもなんだし、帰りますか」
帰り支度を整えると、来た方角に向かって皆で歩き出した。
帰り道でも敵が現れるのでN先輩に先頭で防御してもらい、麟太郎が最後尾から全体を見てアシストする隊列を組み、行動を開始した。
<マスタ。前方に敵の反応があります>
<ワイルドウルフ3体です>
(おk)
(先輩に任せよう)
「先輩!前からワイルドウルフが3体来ます」
「わかった任せろ!」
N先輩はレベルが上がってからはワイルドウルフなど敵ではなかった。一瞬で盾を使い防御しその勢いでスキルも使用せず吹き飛ばしてしまった。
その戦闘を見ていた宮本家族は驚き、キャッチャーマスクを被った残念そうな人という認識を改めるのであった。
「すげぇなあの変な恰好のおっちゃん」
『バシッ』
「こら!あんたって子は……」
「麟太郎!先進むぞ!」
「はい(笑)」
先輩と目線が合った……ドヤッてる。ものすごく顔がしゃべっている、ドヤって言っている。か、顔が……
<後方約300mから未確認生物が追ってきます>
<解析中>
<個体名レッドビックベアー>
<ビックベアの上位種と思われます>
■■■■■■■■■■■■■■■■
〖個体名〗:レッドビックベア
〖属性〗:獣型
〖種類職業〗:魔獣
〖Level〗:35
〖経験値〗:269236
[next]:21988
〖HP〗:4500
〖MP〗:230
〖攻撃力〗:1200
〖防御力〗:1150
〖魔力〗:200
〖アビリティー〗:身体強化Ⅱ
〖スキル〗:トリプルエアシュラッシュⅢ
〖魔法〗:トルネードウィンドⅡ #####Ⅰ
■■■■■■■■■■■■■■■■
<魔法の欄の#####Ⅰは相手が高レベルのため攻撃を受けてみないと解析できません>
(対戦効果は?)
<15万vs3500と推測されます>
(了解)
「皆さん!後ろからモンスターが迫ってきます」
「先輩!皆さんのガードをお願いします」
「了解した」
麟太郎は出口も間近なので例のヤツをお見舞いすることにした。
それと、相手の能力をコピーするためにわざと攻撃を受けてみる。
「さぁ来いモンスターさん」
少しおちょくるようにゼスチャーをした瞬間、ヘイトが完全にこちらに向かったのを確認して攻撃を受ける準備を整える。
怒りを増したレッドビックベアーが魔法を放った。それは炎系と風系の複合魔法のようだった。
炎の竜巻みたいなエフェクトを発生しこちらに向かってくる。
しかし、それらはバリアキューブにより難なく吸収されていき解析の段階に進んでいた。
<解析終了しました。魔法名は《地獄の火炎》です>
(それじゃ目的も達成したし、アレを展開しますか)
「モーションエフェクト展開」
<5秒前>
<3>
<2>
<1>
「空間複合攻撃」
「《Grid break》,now!(グリッドブレイク)砕け散れ。(今)いミヤ!」
<噛んだ>
「あ、噛んだ」
「噛んでますね」
「噛んだな」
「噛みましたね」
「噛んでも素敵♡」
噛んだことに気付いてない麟太郎の左腕が銀色に光り
”光の網”がターゲットに向かって敵の〖前方〗と〖頭上〗に現れた魔法陣から一斉に二点(複合)攻撃で瞬足に速射される。
『キュイン・・・シュン』
対象の空間を次元別に切り裂く光速キューブ斬
『スパッ。スパッスパ……』
レッドビックベアーは無残にも角切りステーキの断片になりモザイクと共に消えていった。
(Grid breakの決めセリフ、一回言ってみたかったんだよな♪)オイ!おまえ優太と精神年齢変わんねえぞ!(天の声)
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