第11話 救出作戦①
中に入ると森のような場所に立っていた。
「おい!麟太郎ココはどこだ?」
「まぁ、何というか、異世界?迷宮?」
「い、異世界?」
麟太郎は左目インターフェースのモニターからレーダーマップとAIをONにしてパーティーメンバーのN先輩の状態ステータスを表示にする。
片目スカウターを装着し戦闘モードに移行した。
(AIさん人間の反応をサーチできる?)
<サーチ完了しました。距離2kmに反応あり>
<サーチした結果、人間の反応が4体確認されましたが山肌の堀穴に入り、避難しているようです>
(その周辺に敵は?)
<今のところその周辺に敵の反応はありません>
(了解)
(ってことは、確実にそこに向かえば救出できる確信は持てたので、すこし先輩を鍛えてみる?か?)
<ご自由に……>
左目のマップ画面に赤い点が数個現れた。
「先輩!早速来ましたよ!準備はいいですか」
「来ましたって!なんの準備だよ!」
「なにが始まるんだ?」
目視できる距離から数体の魔物が襲って来る様子がモニター越しに確認できた。
見た感じ四つ足の獣のようだ。
<鑑定しました。”ワイルドウルフ”という魔物です。>
「鑑定モニター表示」
■■■■■■■■■■■■■■■■
〖個体名〗:ワイルドウルフ
〖属性〗:獣型
〖種類職業〗:魔獣
〖Level〗:20
〖経験値〗:42801
[next]:7036
〖HP〗:350
〖MP〗:35
〖攻撃力〗:150
〖防御力〗:80
〖魔力〗:30
〖アビリティー〗:”遠吠え”
〖スキル〗:《噛みつき》 《ひっかき》
〖魔法〗:《スピードアップⅠ》《ファイアボールⅠ》
■■■■■■■■■■■■■■■■
「ゴブリンの何倍も強そうだな」
「対戦効果 17万vs100 か」
「こいつらも余裕そう!」
「俺も剣の練習だけでもやっておいたほうがこの先便利かも」
「ってお前が何言ってんのか全然わかんねーよ!」
左腕をアサシンタガーにトランスフォームし、瞬時に飛び出していった。
ワイルドウルフは”遠吠え”を行い、さらに仲間を集めるつもりでいるが、目の前に迫っている麟太郎に対処出来ていない。
まず正面の一体が首から斬り落とされ、横から飛びかかって来た一体を回転しながら口元に刃を一閃し頭が横一線に吹き飛んだ。
そこに3体同時に《ひっかき》で攻撃してくるがスライディングで交わしながら《トリプルエアシュラッシュ》を放ちまとめて葬った。
N先輩は口をポッカリと開けて唖然としていた。
(んー。やっぱり気のせいじゃない。体の反応が思ったより早くなってる)
(このレベルならN先輩の初陣式に丁度いいかも、補助すれば大丈夫そうだ)
「麟太郎!お、おまえ。すげぇ……な」
戦闘前、集団で行動するワイルドウルフ習性なのか”遠吠え”で仲間を呼んでいたので、それを聞きつけた別のワイルドウルフ達がワラワラと遠くから迫ってくるのが見える。
「先輩も戦いますよ!お願いしますね」
「ちょ!待てよ!この装備はどうやって使うんだ?」
「しかも能力の使い方もわかんねえぞ!」
「急いでステータス画面を開いてください」
■■■■■■■■■■■■■■■■
〖個体名〗:中村猛(なかむらたける)
〖属性〗:人間
〖種類職業〗:重騎士(ガードナイト)
〖Level〗:1
〖経験値〗:0
[next]:20
〖HP〗:100
〖MP〗:2
〖攻撃力〗:20
〖防御力〗:80
〖魔力〗:2
〖アビリティー〗:”鋼のメンタルⅠ”
〖スキル〗:《盾の報酬Ⅰ》
〖魔法〗:《カウントヒールⅠ》
〖Cube Setting〗
slot.1:
slot.2:
slot.3:
■■■■■■■■■■■■■■■■
「先輩の”鋼のメンタル”と《盾の報酬Ⅰ》《カウントヒールⅠ》をCube Setting 画面のslot1の9面にドラッグしてセットしてください」
立体的に回転しているキューブ画面の半透明な部分がセットした箇所でそれぞれの色に光っていく。
「よ、よし。これでいいか?」
「おkです」
「後は使いたい能力を念じるだけで発動します」
「そして、俺が渡した装備ですが」
「盾で防御し、武器のランチャーで攻撃します」
「イメージ的にはピッチャーの投げたボールを盾で受けてランチャーで二塁への盗塁を刺す感じです」
「いいですね?」
「わかった。やってみるわ」
「敵が来ますよ。頑張りましょう」
一通り説明をすませ、バリアキューブを展開し、N先輩の護衛を始める。
「先輩!一体づつ処理しましょう。他のは無視して構いません」
「よし。うりゃぁあぁああ!」
N先輩は正面のワイルドウルフに盾を突き出し防御した。強い衝撃に一瞬怯んだがここで”鋼のメンタル”を発動。
すると体の周りに赤いオーラが包み込み、力が増した。続けて《盾の報酬Ⅰ》を念じると受けた衝撃を防御力増加に変換した。
「なんとか受けきったぞ!」
「ナイスです先輩!攻撃も忘れずに!」
左腕の盾で防御している状態で空いている右手の武器を構えながらトリガーを引く。
『ドォン』
至近距離から放たれたランチャー攻撃はエネルギー弾のような波動を生み出し衝撃波によって吹き飛ばされたワイルドウルフが無残にも木の幹にめり込み絶命した。
「ははは、俺やったよ」
「やっちゃったよ。麟太郎」
「完璧です」
「次、来ますよ!」
「よっしゃ!」
次々とやってくる魔獣に盾で対応しているN先輩であったがまだ複数相手には荷が重すぎる。
正面で受けている真横から飛び出してきた敵が《噛みつきⅠ》で襲ってきたが麟太郎の展開したバリアキューブにはじかれ衝撃を吸収しエネルギーを蓄積。
先輩は安心したのか確実に一体づつ処理していき、気が付けば20体ほどのワイルドウルフを倒していた。
「やりましたね!」
「わはは」
「おっと次、また来ますよ30体」
「まだ居るのか……」
次から次へと湧いてくるワイルドウルフに戸惑っていたが、持ち前の精神力で対応していた。
ところが敵も対策を考え始め、近距離戦では不利だと判断し、全方位に散らばりはじめ麟太郎たちを包囲する。
そして一斉に遠距離からファイアボールを打ち込んで来る。
「おわぁ!」
「炎が飛んできた!」
バリアキューブの数にも限界があり、30体もの一斉攻撃を迎え撃つには限界があった。
「先輩!正面に来る攻撃は盾でお願いします」
「横や背後はなんとかします」
「まじか。正面って言っても10発くらい飛んできてるぞ!」
慌てて盾を構え、覚悟を決める。
N先輩は短い時間の中で過去の自分を回想していた。高校の野球部に入った時の記憶がよみがえっていたのだ。
初めて高校レベルの速球を受けた時の衝撃、硬い硬球がうなりをあげながら急激にホップして迫ってくる恐怖。
キャッチングをミスして体に当たったら確実に死ぬと思わせるような剛速球。
それを必死の思いで受け、克服してきた遠い昔のあの時を思い出し、懐かしく感じていた。
覚悟を決めた先輩の集中力はまさに阿修羅そのもの。
どっしりと構え、軌道を変えながら飛んでくるファイアボールを確実に撃ち落としていく。
「わははは!どうだ!麟太郎!」
「さすが元野球部キャッチャーですね。受ける技術がとびぬけてウマイです!」
「だろ?140㌔の硬球を受けてきてたんだ」
「ワンコロの吐いた火の玉くらいのスピードなんざハエが止まって見えるわ」
「わははは」
一方、AIはそのN先輩の戦闘を分析し、盾に新たな能力を付与しようと考えていた。
<マスタ>
(ん?)
<あの盾に追加のモーションエフェクトを付与しますか?>
(そうだな。俺たちが居なくても対応できるようにしないとな)
<かしこまりました>
<ではインストールを開始します>
<ME《バインド》>
<展開します>
{インストール中:……}
{レジストリ構築中:……}
{設定ファイルに書き込み中:……}
{ショートカットを作成中:……}
{………………}
{インストール完了しました}
AIは盾に《バインド》という能力を付与した。これは重騎士という職業に最も必要とされるタンクの役割を最適に遂行するための能力である。
(AIさん。盾へ能力追加した詳細は?)
<主にプラズマ磁気エネルギー制御(第二魔法)を活用しました>
(第二魔法ってあれか!第七魔法まで有るって言ってたやつ?)
<はい以前説明しました物質の基礎現象の事です>
<磁気を帯びた光のロープで縛り付け、自分の方へ引き込む能力です>
(なるほど、まさにタンクの役割である引付役か)
<片目スカウターの要素も追加してありますので複数体を一気に縛り上げて引き付けるが可能になります>
(これは、チーム組んだ時に有効だな)
「先輩!その持ってる盾にバインドと念じてください!」
「どういうことだ?」
「敵を縛り上げて引っ張ってきてくれます!」
「相手は身動き取れないのでランチャーで仕留めて下さい」
「わ、わかった……」
『バインド!』
その瞬間、ワイルドウルフ全体に向かって光の磁気が飛んでいき個体をグルグルを縛り上げ、一気にN先輩の元へ引き戻す。
まるで魚釣り(フィッシング)に近い。竿で引っ張り上げながらリールを高速で巻き上げた時と同様に敵が近づいてきていた。
「わはは。カツオの一本釣りじゃなくてウルフの30本釣りだな!」
「トドメだ。ランチャー発射!」
『ドォン!ドォン!ドォン!・・・・』
「りんたろぉぉお!どうだ!俺を見ろぉおお!」
「素敵です先輩!どんどんやっちゃって下さい!」
「戦ってるその出立!被ってるキャッチャーマスクも素敵です(笑)」
辺り一面、ワイルドウルフの姿がモザイクとなって消えていった。
「ふう。爽快だったわ」
「だいぶ戦闘になれてきましたね」
「だな」
「それとな麟太郎、倒していくうちに体がなんか変なんだよ」
「え?」
「なんていうか、力がみなぎる?みたいな?」
それはレベルアップした事でのステータスアップに違いないと確信した。
しかもレベル差20以上あるワイルドウルフである。この差で倒したらゲーム世界ならパワーレベリングに近い。
「先輩もう一度ステータス拝見しても?」
「おう」
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