第9話 魔法の解析と行方不明者

 「AIさんあの洞窟みたいな場所は何だったんだ?」

 <分析中ですが、別次元の世界いわゆる異世界というところで間違いないかと推測されます>

 「まじか。ゴルフ場のモンスターと関連性がありそうだな」

 <否定はできません>

 <何のために異世界と繋がっているのか、繋げると何が起こるのか>

 <少し情報が足りない状況です>

 <しかも、あのゴブリンメイジが持っていたスキルなる物は〖魔法〗という能力でした>

 「えええ?」

 「そもそも魔法って人類の妄想で作り出した空想の中の産物じゃなかったの?」


 <そう認識していました>

 <これは私たちの居る次元空間とは異なる未発見の物質の基礎現象です>

 <回収したギフトキューブから調べる必要があります>

 「カプセルキューブに魔法があったって事か」

 <はい。なので装備するにしても慎重に調べたいのです>

 <同意して下さるのなら少し集中して解析する時間が必要になります>

 「そっか、任せるよ」

 <そこで提案なのですが>

 <演算に集中するため、マスタとのアクセスを時々OFFにしたいのですが宜しいでしょうか>

 「え?俺一人で大丈夫?」

 <緊急の時はONします>

 <そのためマスタ一人でも対応できるような対策システムを組んでおきます>

 <明日までには完成すると思いますので>

 「うんわかった。頼む」

 「それとさ、睡眠シミュレータ」

 「今後も使いたいのだが……」

 

 <かしこまりました>

 <マスタもやっとヤル気になって貰えたんですね>

 <ではマスタの判断で使用できるように権限を移行します>

 「ありがとー♪」

 「あれ普通に寝るより快眠出来るんだよね!」

 

 「あとついでに野望の為に追加パッチ当てて欲しいのだけど」

 <……野望とは?>

 「フィールドに居るプレイヤーと会話出来ないかな?」

 <野望という目的と手段がワカリマセン>

 「いや。べつにナンパしたいとかオフ会やりたい♪とか……」

 

 <ん。>

 「べ……べつにそんなんじゃないから」

 <動機が破綻しています>

 <私が聞いたのは野望とは?>

 <という質問です>

 「いや。べつにそんなんじゃないから」

 <答えになってません>

 <野望の定義を述べて下さい>

 「だから、やぼうというのはあれですよ。まじめにしゅぎょうしてあれのためにがんばろうかなと」

 <なぜ早口で途中から”ひらがな”なんでしょうか?>

 「べ、べつに、ただひとりじゃさびしいなって……」

 

 <却下します>

 「はい。」



 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日の朝


 新橋にある食品関連会社の営業部フロアの一室

 「おはようございます」

 「お!おはよう麟太郎」


 うわさのN先輩に挨拶をし、席に着こうとすると皆ざわざわした雰囲気になっていた。

 「おい!昨日のニュース見たか?」

 「ええ。アレですよね迷宮がなんとか」


 「なんかなウチの会社の社員も何人か行方不明になってるらしいぞ」

 「まじっすか」

 「ああ。それにな、お前ステータス見たか?」

 「ス、ステータス!?」

 

 『ヴィン』

 N先輩は自分のステータスモニターを発動した

 

 「これだよ目の前に浮かんでるモニター」

 「あ、ええ。見ましたけど……」

 「しかし、これって何に使うんだろな?モンスターとリアルに戦うわけでもないのにな」

 「それに、このキューブセッティングって画面、なんだろな?」

 「ちょっと見ても良いですか」


 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■

 〖個体名〗:中村猛(なかむらたける)

 〖属性〗:人間

 〖種類職業〗:重騎士(ガードナイト)

 〖Level〗:1

 〖経験値〗:0

 [next]:20

 〖HP〗:100

 〖MP〗:2

 〖攻撃力〗:20

 〖防御力〗:80

 〖魔力〗:2

 〖アビリティー〗:”鋼のメンタルⅠ”

 〖スキル〗:《盾の報酬Ⅰ》

 〖魔法〗:《カウントヒールⅠ》

 〖キューブセッティング〗

 スロット1:

 スロット2:

 スロット3:

 ■■■■■■■■■■■■■■■■


 「おお」

 「なんか先輩にお似合いのステータスですね」


 「だろ。でもよ、使い方わかんねえしな」

 「職業だって重騎士って俺サラリーマンだしな」

 「まああれじゃないですか全員にこの現象が現れるのであればそのうち国のお偉いさん方々から説明があるんじゃないですかね」

 「そうだよな!それまではこのステータスの話題をネタに合コンでもやるか」

 「やりません」


 「ん?お前……左目どうした?」

 「え?なんか変ですか?」

 「左目だけ赤くなってるぞ」

 「!!!ちょっとトイレで確認してきます」

 

 突然の指摘に慌てたが、たぶんAIさん関係の何かの影響だろう。とりあえず会社の救急箱からガーゼをもらい目に当ててやり過ごそう。


 応急処置を済ました後、給湯室内でお茶を注ぎながら少し考え込んでしまった。

 一連の事件を思い返せば、ゴルフ場や昨日の迷宮の件といい、世界的に異常な事態になっている。

 こんな時、平和に仕事なんかして、お茶を飲みながらのんびりして良いものだろうか。

 そんな事を思いながら自分の席に戻ろうとした時、本田部長がフロアに現れ、部署のみんなに説明があった。

 

 「えーみなさん。おはようございます」

 「一部の方はご存じだと思いますが」

 「一連のニュースなどで騒がれてます事件の事について」

 「本日、緊急役員会と同時に株主総会が行われることになりました」

 「わが社の社員にも被害が発生していることに伴い」

 「危機管理の観点から判断し」

 「本日の業務は休止にします」

 「特に営業部の諸君は得意先などに連絡を取りリスケなどの作業に取り掛かってください」

 

 出社したのは良いが昨日の事件や社員の行方不明の件があり午前中で終業するらしい。

 「先輩は帰らないのですか?」

 「お前がトイレに言ってる間に探したんだけどな」

 「うーんどうしたものか。今日出勤してないんだよ俺の部下」

 「連絡も入れてみたんだが反応なし」

 「だれですか?」

 「宮本 優美(みやもと ゆみ)」

 「ああ、あの子ですか。連絡もないのはおかしいですね」

 「休日にキャンプへ行くって言ってたんだがな」

 「どの辺りのキャンプ場ですか?」

 「たしか、秩父のキャンプ場だったような」

 「えええぇぇえ秩父ゴルフカントリークラブの近くですよね」


 正直驚いた。その場所はあの試し撃ちで訪れ、ビッグベアーと格闘した場所で近くに迷宮が発生している可能性があったからだ。

 「ゴルフは知らないが地名からして近そうだな」

 

 麟太郎はスマホで検索を始め、たしかにゴルフ場の近くにそのキャンプ場が存在していることを確信した。

 「秩父満願温泉キャンプ場です」

 「そうだ。そんな名称のキャンプ場だった」

 「ちょっと心配ですね」

 「そうだな、とりあえず会社宛てに連絡があるかもしれないから俺はもう少し残ってるよ」

 「自分も何にか手伝いましょうか?」

 「いや大丈夫だ。ここに居ても電話対応くらいしか無いからな」

 「もし見つかったらお前の車出してくれるか?」

 「わかりました。待機しておきます。それじゃお先に失礼します」

 「おう!お疲れさん」


 帰宅後、宮本さん失踪事件の捜索と以前からどうしても聞きたかった謎をAIに聞くためアクセスを試みた。

 「AIさん今大丈夫?」

 ………………

 <ONに切り替わりました>

 <なにか緊急な事でも?>

 「会社の後輩が失踪したんだけどね、その場所がどうやらあのゴルフ場の近くなんだ」

 <今から向かいますか?>

 

 「スグにでも行きたいのだが、1つ懸念があってね」

 冷静に考えてみるともしかしたらその迷宮にいるモンスターはビッグベアの巣かもしれない。

 昨日のゴブリンとは強さがまるで違う。

 行く前に準備が必要だと感じた麟太郎は慎重に作戦を考える事にした。

 <懸念とは?>

 「今の実力でビックベアの集団が出てきたら勝てると思う?」

 <シミュレートした結果ですが5体が限度だと推測します>

 「そっか……厳しいな」

 「対策を考えるために朝まで作戦に付き合ってもらっていいかな」

 <かしこまりました>

 「まず、俺は魔法が使いたい」

 「ビックベアー対策として倒さなくても足止めや気絶してくれるだけでも有利となるかなと」

 <分析は完了しているのでモーションエフェクトで再現出来ます>

 <現在、解析が終了しているのは水系、雷系、風系、火系の4種です>

 「土系は?」

 <現在調査中です>

 「そっか。じゃぁ今の系統を組み合わせて考えてみるか」

 「朝まで時間はたっぷりあるし」


 「それとさ。AIさんって何者?」 

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