第8話 迷宮と少女

 急ぎ走りながら反応地点に向かうとそこには多数のゴブリン。


 その数20体はいるだろうか、縄に縛られ連行されようとしている女性らしき影を発見する。


 「AIさんリサーチ出来るか?」

 <すでにリサーチ済です>

 <ゴブリン15体>

 <ゴブリンメイジ3体>

 <ホブゴブリン1体>

 <ゴブリンジェネラル1体>

 <そのなかで最下位のゴブリン達が女性を拘束している状況です>


 麟太郎は状況をすぐさま把握し直感した。司令塔であるボスを中心に行動している集団を相手にする時は、一番強いやつを集中的に攻めることで部下は怯む。


 その為にはまず遠距離から攻撃してくる厄介なメイジを始末しておく必要がある。幸い遠距離型は防御が低い。当たればワンパンである。

 

 「対戦シミュレーターの訓練成果を試すか」

 「よし、まずはボスを狙うふりして魔法を操る遠距離系のメイジだ」

 「同時に一番強いボスを叩く」

 

 <女性の救出が最優先なのでは?>

 

 「こういう喧嘩は得意中の得意だ!中学時代に経験がある」


 「相手の人数が多い時の基本でな、集団心理の弱点を突くんだよ」

 <集団心理?>


 「やつらは”変態”なんだろ?」

 <”変態”中のクソヘンタイ集団です>


 女性の声でスラング交えて変態と聞くとなんかグサッと心に突き刺さるダメージを受ける麟太郎ではあったが、、、

 

 「”変態”の集団だったら女性を殺すとか考える前にどうやって巣にお持ち帰るかの一択だろ?」

 「だから彼女の身の安全は保証されてる訳だ」

 <確かに理にかなってます”変態”ですから>

 

 「それならまず先に絶対的な力を持って指揮を執っている頭を潰す事で、簡単に持ち帰れると思っていた集団心理が一気に崩壊して混乱に陥るのが一番効果的なんだよ」


 「変態本能から生存本能へ変わる瞬間が救出するチャンスだ」

 <さすがマスタです>

 

 <ヘンタイの気持ちに共感しているかのように説得力があります>

 「……あのな。」

 

 「っていうか俺になんの力も無ければこんな作戦は不可能なんだよ!」



 「そういう洞察力が使えるのもAIさんの能力があってこそなんだよ!だから頼りにしてるからな!」

 <!!!…………>


 そんな掛け合いは置いて、すぐさま攻撃態勢を整えて赤く光る片目スカウターを覗き込む。


 『ピ・ピピ・・ピピピピピ』

 スカウター画面の照準線が動き回りながら敵を追いかけていきそれぞれのターゲットを捕獲した。


 『ピーーー。』

 「よし!ロックオン!」

 「行くぞ……。MP5!」

 

 黒光りしたマシンガンの銃口がゴブリンジェネラルに向かって狙撃を行う。

 「撃て。」

 『ガシャ。ダ・ダ・ダッ』

 

 力強い銃声と共に赤いオーラを纏った3発の弾丸はジェネラルに向かって放たれた。


 自分へ向かってきた弾丸を即座に避けるため、咄嗟に回避行動をとろうとするジェネラル。


 『グゥガッ?』

 

 だが目の前で突然軌道を変え、その奥にいた3体のメイジへ向かい『ギャ・ギュ・ギァ』それぞれの弾丸が眉間に直撃した。


 片目スカウターの照準器による魔力ホーミング機能を活用し赤いオーラの誘導弾を操ったのだ。

 

 戦闘態勢だったこのボスは虚を突かれ、後ろを振り向きながら目の瞳孔が開き、一瞬で葬り去られたメイジへの攻撃に意識を奪われてしまう。




 《インビジブル》

 

 そんなジェネラルの隙をついて、ファントムがの如く一気に間合いを詰めてくる見えない影が一体。


 なにが起こったのか、思考回路が追いつかない状況なのに突然懐近くに現れた麟太郎の姿があったのだ。


 困惑しかない、どうしてこうなった。動揺する将軍の足元に、刃を抜きながら爽やかに嗤っている悪魔が鎮座していた。

 

 「オイ。よそ見しってっと死ぬぞ。」

 「草食動物なら常識だ」

 『シュン。』

 

 武器をMP5から銀色の光を発し、サバイバルナイフのような短剣にトランスフォームし、一気に首を刈り取り首が地面に転がった。

 『ドサッ。ゴロゴロ。』

 

 その無慈悲な斬撃に発狂したボブゴブリンが半狂乱で襲い掛かるが、先読みする思考スピードが圧倒的に違いすぎる。


 力任せに棍棒を振り上げた時にはもうすでに遅かった。

 

 「トリプルエアスラッシュ!」

 『バシュバシュズバッ』


 スキル《トリプルエアスラッシュ》中距離攻撃で一閃し四分割に。

 

 残ったゴブリン達は驚愕し混乱に陥った。最強のボスであったジェネラルが草食動物呼ばわりされて一瞬である。一瞬で討伐されてしまったからである。


 彼らも変態である前に自身の命が大事なのは明白で、変態本能よりも生存本能のほうが勝ってしまったのだ。

 だが、それがそもそも彼らの選択肢の間違い、集団心理からなる失策である。


 仮に変態本能が勝って彼女を人質にしながら刃を首筋に当てていたなら、麟太郎は何をするか理解出来ずに様子を伺い、さらに慎重にならざるを得ない。

 

 だが圧倒的な力を目の前にして恐怖に怯え、生き残るため味方であるはずの周りのゴブリンを押しつけ合い仲間を盾にしようとする者、逃げ出そうと走り出すゴブリンにしがみついて引きずられている者、あるいは死んだふりをしている者。


(死んだふりするか普通。アホか)


 この状況はまさに集団パニックである。とんでもない強さの人間が目の前に現れ、恐怖に怯え、生き延びたいが為に拘束していた女性を放置しながら我先に逃亡していく羽目になってしまった。


 だが人間の女性を見ると発動してしまう。そんなうらやましい、じゃなく哀れなアビリティーを持つ変態本能のために迷い、間違いを犯し、アビリティーを無視してまで生き残るために背を向けて走り去ろうとしている。


 そんな彼らの背中に迫って来た……無慈悲なる、光る銀色。


 トランスフォームしたマシンガンMP5。スカウターで捉えた魔力ホーミングのロックオンにより追撃の一撃を受け、あっけなく全滅した。(バリアキューブの出番はお預けか)

 

 (しかしなんだろ?このスピードとパワーは?)

 なぜか不思議な体の感覚を感じ、思ってた以上の身体能力に驚いてしまい戸惑ってしまうが、今は彼女の身の安全と治療が先だ。


 <ギフトキューブ回収しました>

 急いで女性の元に駆け付け、抱き起し顔を確認した。


 「大丈夫ですか!」

 「え???」

 「み、み、美咲ちゃん!?」

 思わず仰天するくらいの驚き。なんと偶然にも知り合いのJKだった。

 

 「彼女の様態は?」

 <気を失って右腕に傷を負っているようです>

 「治療できる?」

 <止血だけで大丈夫だと思いますが念のため傷口を保護します>

 

 AIの処置に任せ処置を見守っていると左腕から少しだけ分離したメタルスライムが包帯のような形に変形し彼女の腕に巻き付いた。


 <これで大丈夫です>

 「よし!ありがとう」

 「ん?目覚めたみたいだ」


 「う、うっ……うん?……はっ!きゃぁぁあ!変態!」

 『バシッ!』

 「イテっ。」


 目覚めた彼女に思いっきり平手打ちを往復で食らった我らが35歳のおっさん。

(痛ってぇぇ。なんかそんな予感してたんだよね…………お約束な流れ的に。)

 

 「ちょっ……まって!俺だよ俺!キミのお隣さんの俺だよ!」

 「いやぁぁぁー!触らないでーこの変態――!」

 『バシッ!バシッ!バ』

 (痛て。イテっ。ってか段々気持ちよく……じゃないか。まじで痛い)


 『ドカッ!』

 「う。。。」

 (なんか肘が入った)

 

 「え?」



 「あっ……………!………。」

 「…………。隣の……は!」

 

 混乱していたのか、目の前に現れた人物をゴブリンと勘違いして思いっきり張り手で往復してしまった。


 そして哀れにも、ぷっくらと赤く腫れあがった麟太郎の頬を見つめながら申し訳なさそうに謝ってくるJK。

 

 「あ、あ、あの……すいません。つい緑の”変態”と間違って……」


 

(なんか変態って言葉に慣れてきたな。   むしろ……)

 <マスタ>

(はい。すんませんでした)

 AIに遮られながら何かに開眼したかもしれない自分を律し、ヒリヒリするホッペタに嬉しいじゃなくて痛みを我慢する彼の姿に呆れるAIさん。


 

 彼女の名前は〖西野 美咲〗俺が住んでるマンションのお隣さんだ。

 JKの彼女は、実家が遠いため学校に近い場所で住んでいた姉のもとで下宿していた。


 「でもどうして伊庭さんがココに?」

 「あ、うーん。なんていうか近くを通りかかったら女性の悲鳴が聞こえた?から?かな?」


 「そしたら美咲ちゃんが倒れていたので駆けつけただけだよ」

 「……そうでしたか。あの、助けていただいてありがとうございます」


 美咲はゴブリンに襲われ気を失う前、ボンヤリとする視界の中で銀色の……彼の驚くような能力を観ていたが、少し誤魔化すような麟太郎の言い訳に話を合わせることにした。


 「いえいえ無事で何よりだよ」

 「一緒に家まで送るよ」

 「はい。ありがとうございます」


 帰りの道中、なぜ一人で体育館にと聞いてみたらどうやら部活が終わった後、みんなと別れふと体育館の入口に視線を向けたらユラユラと揺れているドアが気になって入ってしまったようだ。


 無事家まで送り届けた麟太郎は今後の対策をAIと打合せすることにした。

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