第6話 訓練開始とインビジブル

 麟太郎はAIとの話し合いを終えた後、休日を楽しんでいた。


 日課であるYour Tuobe[ユアチョ―ブ]でリアクター動画と釣り動画を渡り歩き、〇ちゃんねるで軽く参戦し、携帯ゲームのデイリークエストを消化して気が付けばそろそろベットに入る時間が近づいている。


 夕方話したインビジブルと四角いバリアの完成まで一週間あるが……。


 その間、ふと不安になった。敵へ対応する為に片目スカウターを得たからといって、いつ急な襲撃が来るとも限らない。


 自分の攻撃は出来るかもしれないが、相手のどんな攻撃が来るか予想も出来ない。


 もしかすると回避すら出来ない可能性だってあるのだ。


 そんな事を考えていると、AIから一つの提案が。


 <ところで、マスタ。>

 「ん?」


 <これからの1週間、私からの提案があります>


 「て、提案ですか……なんか嫌な予感が」


 <先ほども話したように、いつモンスターが襲ってくるか分かりません>


 「うむ」

 <そこで今日から2週間、訓練しませんか>


 「はぁぁあ?2週間って?」

 「仕事どうすんの?生活費は?」


 <心配ありません>


 <仕事も普段通り出勤して頂いて構いません>

 <毎日一晩寝ている間だけですから>


 「まったく意味が分かりません」


 <では説明します>


 <睡眠時間を利用した訓練&対戦シミュレーターを利用します>


 「ってことは、寝ている間に修行するってこと?」


 <その通りです>

 「バリア開発まで7日じゃなかったの?どういう事?」


 <マスタ。寝ている時に長い夢を見た経験は無いですか?>


 「うん。あるね」

 「朝起きた時、結構長い夢見たなぁって感覚?の事かな?」

 

 <はい。ですが実際はほんの数秒の間に起こってる現象なのです>


 <今回のシミュレーターはその現象を利用しさらに第三魔法(時間操作)を付与した仕様になっております>


 <睡眠1時間に対して約2時間ほどの時間経過が体験できます>


 <要は倍の時間を利用できるということです>


 <7日間で約2週間ほどの訓練が実行可能です>


 「理屈は分かったけどさ、2週間も修行三昧って、モチベーションきつくない?」


 <理解しました。……ではモチベーションが上がれば可能と?>


 「うむ。モチベーションは大事だ」

 

 <マスタ。好きなゲームはなんですか?>


 「良い質問だ。エロge」

 <却下します>


 「冗談だよ!本気でかぶせてくんな!」

 

 「まぁ。なんでも好きだけど、しいて言うならRPG系」


 「んー。FPS系もアリだな」


 「格ゲーも捨てがたいが、以前MMORPGのPK住人にボコられて、捨て台詞を吐かれてから」


 「いつか雪辱を……」

 

 <では、MMORPG系の舞台を用意します>


 <では、いってらっしゃいませ。マスタ>


 「え?」

 「は?」


 『ヴィン』


 ――――――――――――――――――――――――


 「ん?ここは?」

 「おおおお♪」


 ここは以前、7日も連続で有給を貰い参戦した懐かしいMMORPGのフィールド。


 言うまでもない。あの世界だ。


 初心者だったあの頃を思い出す世界が、ココに、まさにココに存在していた。


 「まじか……」


 「これがAIさんの言ってたシミュレーターの世界か?」


 「じゃぁ試してみるか」


 「片目スカウターON」


 「トランスフォーム。MP5」

 

 左腕が銀色に光りだし、機関銃に変化していく。そして左腕から登ってくるスカウター。


 「おお。自分の能力はそのままか」

 

 俺の記憶の中のMMORPGを再現し初期フィールドに転送している。


 しかも、初期装備は変わらないが、なんと!片目スカウターと左腕の能力は健在している。


 チートだ。普通ならGMが飛んできて即BANの対象である。


 MOBっぽいモンスターもちらほら居るし、セーブポイント辺りに居る人だかりはプレイヤーなのであろうか。


 ちょっと狩ってみるか。


 麟太郎はセーブポイントから南西の方角に歩き出す。その先には湖畔があった。


 湖畔の浜辺には複数のMOBが闊歩していた。


 片目スカウターを覗き込みMOBに番号を付けていく。


 その順番で攻撃する予定だ。


 「ロックオン完了」


 「アサシンナイフへトランスフォーム」


 「攻撃開始!」


 『はっ!!』

 『ザシュ。ザシュ!』


 まったくゲームの内容と同じだった。しかし、1つだけ違和感がある。それは体を使う感覚があったのだ。


 指先のキーボードとマウスだけを動かしていたゲームと違いリアルのように体全体を操作しないと動かない仕様になっているのである。



 「なるほど、これは経験を積むごとにリアルでの対応速度も身についてくるな」


 「ストーリーやクエストも同じ仕様みたいだし、サクサク進んで鍛えるか!」


 麟太郎は剣術、狙撃術、格闘術、スカウターの操作、回避、防御などの基本的な技術を少しづつ習得していく。


 そして睡眠時間が終わると自動的に現実世界に引き戻された。体感時間16時間。


 長い夢を見ていた感覚が残っている。


 「ふわぁぁ……。よく寝た」


 <おはようございます>


 「ん?AIさん。おはよう」


 <シミュレーターはいかがでしたか>


 「うん。最高だ!しかもぐっすり寝た感覚もあるよ」


 「これなら毎日でも修行出来そうだ」


 <それは良かったです。なにかご要望があれば随時追加しますので、おっしゃってください>


 「わかった。気が付いたらお願いするよ」


 「じゃ。朝の準備して出勤するか」


 ――――――――――――――――――――――――

 1週間後。


 自宅マンションの屋上に一人のサラリーマンが佇んでいた。


 やっとこの日を迎えたのだ。


 長かった。ホントニ長かった。


 睡眠シミュレーターのお陰で倍の時間待ったような感覚がある。


 <発動します>

 

 <ME《インビジブル》展開>

 

 展開されたモーションエフェクト〖固有魔法〗は麟太郎の体がボンヤリと薄くなっていきユラユラと蜃気楼のようなエフェクトを残し消えていった。


 「おほ!」


 近くの窓に映っていた体が完全に消えている。


 自分で全身を見渡しても完全に透明人間に見えていて、この能力の凄さを実感した。

 

 しかし、世の男性にとって人生の中で誰もが一度は考えた事のある透明人間になったら何したい?的な夢の実現に成功した彼は予想通りのアレを考えるがそれはまた別の話。


 <マスタ>

 「はい。」

 

 <この能力は私の許可制とし、カギをかけます>


 「……はい?」

 <良いですか!>

 「はい!」


 AIになんか考えてることがバレていたみたいで、余計な反論はよそうと素直に返事をしたがふと気が付いたことを問いかける。


 「まぁ、それは置いといて」


 「これってさ、戦闘中に便利なんじゃ?」


 戦闘中、相手の姿が見えない事はかなり有利になる。戦略の幅が広がるのだ。使用しない手はない。


 <そうですね。目で追いかけてくる相手には有効と考えますが>


 <モンスターによっては熱感知やエネルギー体感知など他の方法で捉える者もいるようです>


 <なのでさらなるブラッシュアップを考えておきます>

 

 <ですがマスタがおっしゃるように戦闘で有効なのは間違いありません>


 <戦闘モードの時は自動でキーを解除しましょう>

 

 「そ、そっか、わかった……」

 

 「ところで早速だけど飛べる?」

 「はよ。はよ♪」


 <かしこまりました>


 <ME《空中浮遊》展開>


 透明のまま浮かび上がった体が宙を舞う。


そのまま移動していき青空の下、新宿のビル群を通過し、四谷のお堀を見下ろし、赤坂見附を通過しながら日比谷公園の上空にさしかかった。


 地上の人々が忙しなく行き来している。公園で寛ぐ人々、ジョギングしている人、ショッピングしている人などそれぞれに幸福感を満喫しているのであろう。


だけど皆、空想の世界のように自身の体が中に浮いて飛べないのである。


 人間として自身で空に飛んでいるこの特別感、優越感を体験し、本当に鳥になった気がした。

 

 「鳥ってこんな風に人々を眺めていたのかな」


 そして皇居を背に1つのビルへ近づき屋上の角に降り立つ。


 「ここだ……」

 「夢にまでみた現実だ」


 感動のあまり目を潤ませながら遠くに見える富士山をながめ、いつも地上から見上げていたこの場所の向こう側を体験した。


 その後、もう一度、新宿副都心のビル群を縫うように空中遊泳し、また高層ビルの屋上の角に降り立ち、夕日を堪能する麟太郎であった。



――――――――――――――――――


あとがき


次回、変態が登場します!

今後の展開が気になりましたら是非ともブックマークや☆評価などコメントも頂けたら執筆の励みになります。


しん吉

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