第5話 新魔法の開発

 日曜日の夕方

 ――――――――――――――――――


  ぶっw!  わはっ!わハハハはははは(笑)……ひぃひぃィ。…………(涙目)

 新人芸人頑張れーーー!

 

 え?ズッコケタ芸人の隣の奴がもらい事故で熱湯かぶっちゃったよ!(熱ッ熱ッ熱ッ)ワハ!わハハは(笑)~~~~!ふーふー。

 ぁ~~チョット待って!涙が出る!モウ勘弁して!……

 涙を拭こうとするが。。。。

 

 ん?・・・ぷw!!ぅわあっはっはははハハハ!

 ・・・・・・ハア~ハア・・・マッテまじ苦しいぃぃぃ!モウヤメテ~~!


 連続するアクシデントで真剣にレースをしている若手芸人に笑いの拷問が容赦なく迫ってくる。

 

 リアクション芸人が氷の上で、頭に熱湯の入った洗面器を乗せ、滑ってズッコケる度に飛び散る熱湯の雫。

 それを浴びた周りの芸人が熱チャア熱チャ悶絶するという、サバイバル動画を観ながら涙する麟太郎であったが、AIさんはなにやら調べ物をしている様子だ。


 <マスタ>


 「ひぃひぃ。。チョットまって(涙)なに?」

 <先日回収した野生の熊の解析が終了しました>

 「あ~熊さんね」

 「やっぱ謎のモンスターの仕業?」

 <はい。傷跡に付着していたDNA分析の結果>

 <現代地球に存在しない物質である事が確認されました>

 「存在しない?」

 <あくまでも可能性ですが、異世界の物質です>

 「キタぁ――!異世界!」

 「わくわくすっぞ」

 <そんな状況では無いと思います。昨日も一歩間違えれば死んでましたよ>

 「だってAIさんのグリッドブレイクがあれば余裕でしょ」

 <Grid breakはエネルギー消費が大きいため何度も使えません>

 <今現在もエネルギー補填中なので使えません>

 「まじか……じゃ今襲われたらアレってこと?」

 <アレですね>

 

 これはまずいことになりそうだ。今のうちに対策を考えておかないとな。

 そういえばあのステータス画面って何だったんだろう?


 「AIさんステータス画面はなぜ作ったの?」

 <あれは私が作ったものではありません>

 <昨日の光の雨が原因のようです>

 「え?」

 <光の雨を分析し、仕様法を確認しました>

 <まだ解析中のため一部の事しか解らないのですが>

 <なぜか私の構築するプログラミング言語と共通するものが多いので調査中です>

 「まぁ、よくわからないけどお願いします」

 「そしたらさ、なんか俺に出来ることある?」

 <そうですね……いろいろなモーションエフェクトやスキルなどを考えて頂くというのはどうでしょうか>

 「俺が考えるの?」


 人工知能AIというのは様々なビッグデータを統合して正解を導き出したり、求められた事象を演算する事を得意としているが、人間が持つ直感的な発想や深みのあるアナログ的な表現を苦手としている部分も多々ある。

 理想としたら人間が発想したアイディアをAIが実行する仕組みを構築出来ればあらゆる可能性が広がるのである。


 <よろしくお願いします>

 「そうだな、アイディアを考える事くらいなら頑張ってみるか」


 「ん!出来た!」

 「イケメン男子にトランスフォームでモテモテ光線発射ってのはどお?」

 <却下>

 「反応はやっ!むしろ俺の発言中にすこし被って言ってきたよな」

 

 <戦闘に全く関係ありません>

 <もっとまじめにお願いします>(キッパリ)

 「はい。」


 んーーそしたらまずは昨日の戦闘中に困ったことをまとめてみるか。

 1:相手の攻撃をよけきれない

 2:相手の動きを捉えられない

 3:結果、攻撃が当たらない

 これらの弱点を補うとなると……まずは避けきれない防御系かな。

 でもそれにしても、あのグリッドブレイクってカッコよかったな……四角くなって……ん!!!

 四角形?そうだ!あれだ!四角い箱のバリアを展開すれば……。


 「AIさん戦闘の時に思ってんだけどさ、防御のために四角いバリアってどうだろう?」

 

 <そうですね空間支配と重力管理、磁気制御などの要素を組み合わせて演算してみましょう>

 <この演算には1週間ほどかかると予想します>

 

 「了解。たのしみだな」


 これで防御系はなんとかなるだろう。んーー問題は攻撃面か……。

 四角いバリアが発動した後は左腕のトランスフォームでAIさんが自動戦闘モードみたいな感じで戦ってくれるのも楽で良いけど、俺見てるだけってなんかつまらないしな。

 自分で撃ちたいし斬りたいし……けど……

 そもそも相手を捉えきれないから当たらないんだよな。

 

 捉える。


 捉える?ん?


 捉えるって事は……ターゲット。


 ターゲティング……!?


 …………あっ!?閃いた!

 

 【ロックオン】だ。


 わは!

 

 「戦闘機だAIさん!」

 

 <戦闘機ですか?>

 「そうそう。自動照準器だよ。」

 「戦闘機で敵を追いかけている時レーダーで感知し照準を合わせるターゲット表示板」

 「あれで敵をロックオン状態にして自動追尾する」

 

 <すぐ演算してみます>

 <素粒子変換、磁気制御、空間支配などを組み合わせて@@!こちらはすぐにでも演算結果が出ます>

 「スグってすげーな!」

 

 <演算終了しました。展開しますか?>

 「うんうん」

 

 <部屋の中では効果がわかりませんので隣の公園で試したいと思います>

 「公園って!通報されたりしない?」

 

 <問題ありません。ただし出かける前にピーナッツとフード付きの服を着用してください>

 いろいろと言いたいことはあるけど今は実験優先だ。言われるがままにパーカーを羽織っておつまみ用にとってあったピーナッツの袋を手に持ち、公園に向かうのであった。

 

 到着してすぐ

 <それでは展開します>

 

 <アプリ起動……”片目スカウター”>

 左腕が服の中で少し分離してフードの中を伝い、左目にモニター付きの片目スカウターが装着された。

 「うぉ……なんかメカニカルなデザインでカッコいいね」

 <装着した姿を周りに見せないためにパーカーを着てもらいました>

 「なるほどね。で?どうやって使うの?」

 

 <ターゲットを念じるだけです>

 「ターゲットって……公園には鳩くらいしか……それ?」

 <そうです。鳩を念じてください。>

 「……了解」

(ん-ーーーーー鳩!)

 その瞬間、片目スカウターのモニターに丸い目盛線が何重にも表れ、戦闘機でよく見る照準線スコープが現れた。

 照準線は鳩を捉えると赤く発光し、ターゲットが動いてもロックオン状態を維持している。

 「すげっ!!」

 <そのままピーナッツを投げてみて下さい>

 麟太郎は鳩に向かってじゃなくAIのシステムに反抗するがのごとく別の方向に投げてみたが、ピーナッツが常識的に変な曲がり方をして鳩に向かっていく。そして、胴体に軽く優しくヒットした。

 「おお。まるで誘導装置がついてるみたいな曲がり方したな」

 ピーナッツが当たった鳩は一瞬驚いていたが、豆を確認して美味しそうに食べていた。

 「なんかさ、当たった時、ハトが豆鉄砲くらったみたいな顔してたな(笑)」

 <実際くらいましたから>

 そんな様子を見ていた他の鳩が餌を求めて何羽か集まって来た。

 「なんかいっぱい来たよ」

 <つぎは複数の鳩を念じてみてください>

 「よし!こうか!」

 念じた途端、モニターに複数の照準線が現れ次々とターゲティングしていく

 <ピーナッツをまとめて投げてください>

 袋からワシ掴みにしたまま、適当に投げてみたがそれぞれのロックオンしたターゲットに向かって100%ヒットしていった。

 <成功ですね>

 「もう勝った。俺はもう無敵だ」

 <鳩相手に勝っても意味がな……>

 「気持ちの問題だよ!!なんか調子狂うな」


 そんな掛け合いをしていると近所のガキがワラワラ集まってきてしまったので退散することにした。

 

 自宅に戻り、これからの事を考える事にしたが、どうしても麟太郎には昨日の空中浮遊を体験してからの、ずっと叶えたかった1つの夢があった。夢とは彼のフェチに起因するどうでも良い願いであったがこの際思い切って相談してみることにした。


 「AIさん、ちょっと聞いてほしいことが」

 <何でしょうか>

 「俺ね。実は、境界線フェチなんだよね」

 <????>


 なんか自分のカミングアウト告白って凄く恥ずかしいな(クス)。

 <境界線?>

 「まあ平たく言うとアレですまさに境界線」

 

 <言ってる意味がワカリマセン>

 

 驚愕の感情をAIに向ける麟太郎

 

 こいつは何を言ってるんだ?意味がワカリマセンだと?は?

 あの尊い境界線の向こう側に見える希望の景色がワカラナイだと?

((普通みんなワカラナイよ))天の声

 

 「青空を背景にしたビルの屋上の境界線の芸術が分からないだと?」

 <はい>

 「普段歩いていてふとビルの屋上を見上げた瞬間!最上階の外壁の直線的な輪郭線と青空の切れ目が心を揺さぶるって事だよ!」

 「君には無いのか?あの境界線の向こう側に一体どういう希望と未来があるのとか」

 <……>

 「特にビルの最上階の角!まばゆいばかりに洗練された究極の90°角をバックに映る青空」

 

 <それがなにか?>

 

 人は思う、地面に佇むその場所から遠くにそびえ立つ巨大な建造物の凛とした姿に刮目し、その頂上の境界線を観た時、もしもそこに到達したら、その線の向こう側に何があるのか。まだ見ぬ景色と世界を想像しワクワクする。

 そこはAIには分からない人間の感受性の問題なのか。((あなたのフェチの問題))天の声


 「端的にいうとビルの屋上の角に留まりたい」

 <かしこまりました>

 <空中浮遊で鳥のように飛んでビルの屋上の角に座りたい訳ですよね>

 「うむ」

 

 <そうしますと現実的に人間が空を飛んでて屋上に座っている>

 <これは非常にまずい状況となります>

 <動画撮影をされて拡散されたら大変なこととなりますので>

 

 <1つ提案があります>

 「提案?」

 <はい。姿を見せないようにすることです>

 <対象から見えないようにする透明化>

 <インビジブルです>

 「透明人間か!なるほど!いいね♪」

 <これは重力管理と空間支配を組み合わせて>

 <要は空間と重力を利用して光を曲げる方法です>

 「なんか聞いたことある。光が曲がると姿が見えなくなる現象だよね」

 <そういう事です。人の目が見えている世界は光の反射を利用した現象なので>

 <光さえ曲がればその場所に誰も居ないことになります>

 <ですが宇宙観測でも確認されている事象ですが莫大なエネルギーが必要となります>

 「莫大って想像できないのだけど」

 <ブラックホール並みのエネルギーが必要です>

 「え?そんな大丈夫なん?」

 <防御系バリアの演算も並行しますので>

 <完成に必要な時間は1週間程度です>

 

 「そんな簡単に出来ちゃうってアンタ何者?」

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