第3話 謎の生物と必殺技

 ゴルフ場が閉鎖になった原因である熊が倒れている。この状況に困惑する麟太郎。


 <調べますか?>


 「そ、そうだね。なんか俺が誤射して殺したような感じは夢心地が悪いしね」


 少しビビりながらソロソロと約5mほど近づいてみた……


 その熊の体長から推測して親熊らしい巨体だ。


 しかし、横たわる体の傷の酷さに思わず目を奪われてしまった。


 なんともおぞましい程に切り裂かれ、無残にもパックリと割れた致命傷。


 その傷には肩口から骨盤の付け根あたりまでに三本線のような傷跡がある。

 

 「こ、この傷はなんだろ?」


 もしこれが生物の爪や何かしらの物理攻撃だとしたらとんでもない大きさの化け物の可能性がある。状況的に精査してもこれは実際の現場を刮目すればすでに確定的な現実だ。

 

 <何かの生物による攻撃だと推測されます>


 「だよね……。どうする?この死体?」

 

 <回収して時間をかけて解析したいと思いますが宜しいでしょうか>


 「回収って(笑)こんな大きなものどうやって(笑)」


 <さほど問題ありません回収後、吸収分析によるオペレーションを行います>


 そうAIが言い残すと、俺の左腕が再びピカピカと銀色に光る。


 左腕が変形して流体金属のアメーバように下へ伸びていき、地面を伝って水が流れるがの如く、熊の体周辺に水たまりが出来た。


 まるで水銀の沼地である。



 その鏡の沼に浮いていた熊の亡骸がゆっくりと静かに沈んでいく。



 そして時を待たず『トプン』と雫音を残し、ゆらゆらと小さな波を形成しながら幾重にも波紋を広げ、やがて銀色の水面に再び静寂が訪れる。

 

 その一秒後……。


 『ドゥクン!』



 なにやらスクラップ工場で強制的に圧縮するような音が鳴り響いて一瞬のうちに縮まり元の腕に戻っていく。

 

 <吸収完了しました>


 <これより数時間をかけて分析作業に移行します>


 さすがに愕きを突き抜けて、今まで平穏な普通の生活を送って来た麟太郎の人生が今、まさに常識崩壊の一歩手前まで来ている。


 「はぁ~~。もうさ、何も驚かないよ」


 「もう……そのクマさんはキミに任せるから、俺は本来の目的である試し撃ちの練習を再開したいのですが……」

 

 麟太郎は心底呆れていた。そもそも突然腕が変形し魔法のように空を飛び、実際に在りえない事象が次々と起こり、見たことも聞いた事も無い不思議な体験をしている。


 こんな異常な現象は普通に生きてきたらまずあり得ない。


 もしかすると遠く深い夢でも見ているのか。


 そう問いかけるのも馬鹿らしく思えるのである。


 <試し撃ちですね>


 <かしこまりました>


 <それでは障害物や標的が在った方が効率が良いと思われますので、ゴルフ場に隣接する山の中で行う事を推奨します>



 「……よし!おk!GO!」

 

 ――――――――――――――――――

 

 「うん!この辺りが良さそうだ!」

 「先ずは。……っと」

 「あの木の根本の岩だな」

 「狙いを定めて……と」

 「ショット!」


 『ズダダダッダダダ』

 「次、手前の木の奥にある蔓」

 『ズダダダッ』

 

 何故か意味もなくバレーボールの回転レシーブのように側面へ転がり片ヒザを立ててもう片足を横に伸ばし射撃のポーズを取っている。


 「次はあの木」

 『ダダダダダーン』

 

 何故か意味もなく撃った後、地面に伏して反撃を回避するポーズを取っている。


 何故か意味もなく伏せながらゴロゴロと回転し何かを避けている。


 「次。」

 何故か決めポーズを作ってて、


 なんかだるい。なんか偉そうだ。なんか目が据わっている。

 

 「次は切り返して遠距離!……ん!」

 

 彼は偶然にも発見してしまった。美しいゴルフ場に唯一存在するあの忌々しい杭を。楽しいゴルフ人生を、奈落のどん底に引き込んでいく白い悪魔の杭を……。

 

 ゴルフのルールでボールを打ってコース上の外側に転がった場合、罰を受ける。


 いわゆるコースの範囲外に飛び出しましたよ!あなた2打罰です!という合図、その目印が悪魔の白い杭である。


 したがって、競い合ってる仲間から競技上後退してしまう、本人にとったらなんとも恐ろしい無慈悲な杭なのである。


 そんな過去の記憶がとめども無く溢れてきてトラウマが一気にフラッシュバックしたのか、麟太郎の中の何かのスイッチがONになり思わず我を忘れてしまった。


そして……。

 

 「単発レバーON スナイパーモードに切り替える」

 「目標、ゴルフ場にあるOB杭(OBなんて嫌いだ)」

 「積年の恨み。今、復讐の時がやって来た。白を。すべて破壊しろ。」


 『ダン。ダン。ダン。ダン。』

 『バキ。バキ。』


 「わはーはは。どうだ!悪魔のOB杭!仲間が見つめる中、ナイスショットの希望を乗せ魂を込めて打ち込んだボールがOB杭の外にハミ出した時の俺の絶望感を思い知れ!」

 

 「わはーははっは!」

 『ダダダダダーン』


 <大丈夫ですか?心拍数が上昇しています>


 <落ち着いてください>


 「わははははっはははhhhh●×▽◇」

 

 

 彼は何の敵と戦っているのだろうか?何かゴルフ経験で苦い思い出でもあるのだろうか?


 AIの制止も聞かず、所々にあるOB杭へ怨念でもあるかのように次々と破壊していく。


 理由はどうあれ、彼の射撃のスキルは急激に向上した。

 

 MP5の乱射もあらかた終わってさらに他の武器、ブローニング拳銃、ワルサーP38(三代目が愛用)、 S&W M19 コンバット・マグナム(撃つ時シケモクが必要)、斬鉄剣(つまらない物を斬る剣)、デルタフォース仕様MP7、M61 バルカン、SMAW ロケットランチャー等々を試し撃ち斬りして白を絶滅し、一人感動に震えるサラリーマンであった。

 

 途中見渡すと辺り一面がひどいことになっている。まるで自衛隊の演習場みたいだ。


 そんな荒れ果ててしまった場所をAIさんがすんなり修復している。


 どうやら破壊した場所を空中浮遊の時のように何かしらのモーションエフェクトを使用して元に戻している様子。


 爆音の遮断や振動も周辺に聞こえないよう無難に操作しているみたいで、安心して楽しむことが出来ていた。


 「ふう。白杭も殲滅したし、なんて心地いい汗だ」

 「一息つこうかな」


 約1時間ほど練習をしたあたりでようやく満足した35歳はかなりスッキリしたようでちょっと休憩しようと目の前の切り株に腰掛けた。

 

 その途端、なにか重厚な覇気に押し潰されそうなビリビリとする何かの違和感を感じた!?


 「ん?」

 周りを見回してみるが目で確認できる範囲には何も見えない。


 「気のせいか……」


 だが確かにおかしい。空気感というのであろうか、微睡?威圧感?なのか。


 そんなことを考えてると確かに何かの音が聞こえてきた。


 『ガサ……バキバキ……』


 何かこっちに向かって木々をかき分けてるような音だ。


 「近づいてくる!」


 ゾワゾワした変な感覚の後、急に目の前の景色が”ゆがんだ”ように見えた。


 『ヴィン』


(あれ?なんかめまいが?した?)


 感じた違和感の最中に突然、巨大な影が浮かび上がり、2つの赤い光の点が糸を引くように左右に揺らぎながら……『ガゥワァァァ!』……何かが吠えながら向かってくる。


 勢いよく目の前に近づいてくるたびにその影の大きさに視界が全てそいつで埋まっていく。


 「うわぁぁええぇぇぇぇぇ~~~~!」


 思わず叫んで見上げてしまった。


 それは体長5mくらいの赤黒い姿をした巨大な熊の化け物で、明らかにこっちに敵意を向けている。


 

 <!!!!>

 <なぜこの時代に”並行世界”〖エンカウントワールド〗が……>


 「なに言ってんかわかんないけど今ヤバい状況だぞ!」

 「うわ!っ」

 

 体を揺らしながら赤く光った両目をこちらに向け、言ってるそばから物凄い勢いで突進してくるこの化け物を、なんとか横っ飛びで交わした麟太郎であったが……。

 

 いったい何が起こったのか理解できずに混乱し、たまらず感情を爆発させた。


 「うわぁぁぁぁ!どうなってんだよまじで!!」


 <未確認生物により攻撃を受けたようです>


 「どうすんだよ!こんな化け物!」


 「あんな理不尽な輩(ヤカラ)”砕け散”って欲しいんだけど!!」


 そんな緊急事態のさなか、先ほどの熊の死体が脳裏をよぎる。


 たぶんコイツにやられたんだろうと麟太郎は直感した。

 

 <対抗策を演算中……>

 「え・演算中ってオイ!」

 「何の放置プレイだよ!」


 AI任せの対応に頼るしかない情けない状況なのは分かっているが、その間どうすんの?俺自身の能力でどこまで防げるのか……。


 だが今起こっている事を考えると時間稼ぎ一択。


 当然ながらAIにすべてを任せて、なんとか必死に逃げ切る事を優先するしかない。


 そんな状況の中、敵の攻撃が容赦なく襲ってきた。

 

 「おわぁ……」

 「っく。。。よけきれるか」


 体をねじりながらなんとか2撃目をかわす。


 その勢いで地面に転がり必死に迎撃態勢を整えてターゲティングを試みるが、予想以上に化け物の動きが速すぎて捕えきれない。


 MP5の機関銃を乱射し近寄らせないように牽制し、奇跡的に当たればと祈りながら反撃をしたけど、あの巨体でファントムのように素早く動く敵にまったく対応できてない。


 『ダダダダダダダ』


 再び、やみくもに180度の方向に乱射する。


 『グワワワオガァァアア』


 訳のわからない叫び声を発しながら地面をえぐり蹴り飛ばしながら突進してくる。

 (これは正直やばい。うわぁ3撃目がキタ)

 

 その瞬間左腕が銀色に光り、自動的に盾へ変化した。


 どうやら勝手にAIさんがオート防御モードへ移行したみたいだ。


 後方に大きくのけ反りながらモンスターの巨大な右腕が振り下ろされ三本の爪が目の前に迫ってくる。


(うわ!盾が勝手に動いた)


 強烈な攻撃に対して銀色の盾が動き出し素早く防御。


 『グヮガキン!』

(ぐわっ。。)

 

 なんというパワーだろう。


 盾が何とか衝撃を吸収しながら耐えてはいるが、こっちの体力が持たない。


 次の攻撃が来たら足の踏ん張りがきかなくなって吹っ飛ぶだろう。

 

 「ハァハァ。さすがにもう、ムリだ……」


 「エ……エ……AIさん。……っぐ。対抗策……mあd!?」






 <演算終了しました>

 

 <緊急【モーションエフェクト】発動します>

 

 <5秒前>

 

 <3>

 

 <2>

 

 <1>

 

 <空間複合攻撃>

 

 <《Grid break》,now!>(グリッドブレイク)砕け散れ。今!



 碁盤の”マス目”のような”光の網”がターゲットに向かって敵の〖前方〗と〖頭上〗に現れた魔法陣から一斉に二点(複合)攻撃で瞬足に速射される。


 『キュイン・・・シュン』

 空間を次元別に切り裂くキューブ斬

 

 『スパッ。スパッスパ……』

 

 それは凄まじい攻撃だった。


 左手から碁盤の網目のような光のグリッド(網目)が放たれ敵を刻み、それと同時に敵の真上から同じような光のグリッド(網目)が下りてきて切り刻み、まるで”正立方体”キューブのようにバラバラに砕け散った。


 「うわぁ!なんじゃぁアレは@@」


 「もう驚かないって心に決めてたのに」


 「はは。AIさん……アンタ凄いね。あれ見てよ」

 

 まるでお味噌汁に投入する豆腐みたいにカットされた敵の細切れキューブが散らばっている。


 その景色を観ながらあきれている35歳であった。 



――――――――――――――――――


あとがき


次回、設定回です

今後の展開が気になりましたら是非ともブックマークや☆評価などコメントも頂けたら執筆の励みになります。


しん吉

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