輝け
「そして、僕はようやく今、君に話しかけているんだ」
蛍光ちゃんは僕の言葉に瞬きをした。
「…………豆電くんは本当に私のためにそんなことをしてくれたの?」
「モチのロンさ。いや、きっと蛍光ちゃんか
ら見たら変だろう。拙いだろう」
「私よりも饒舌に表情豊かに感情表現が出来ていると思うわ」
「えっ、嘘?」
「本当よ」
蛍光ちゃんはこっくり頷いた。なんと、いつの間にか僕はこの世で一番感情表現が得意な人間になっていたらしい。
「それで蛍光ちゃん、僕は君に伝えたいことがあるんだ」
「何かしら?私、貴方のお話なら何でも聞くわ」
「まずは初めて会ったあの日、ケツをピンクに光らせて迫ってすみませんでした!」
「ああ、あのこと?」
蛍光ちゃんは無表情にコテリと首を傾げた。
「いいのよ。いつものことだもの。私には分からないのよね。その色が相手のどの感情だとかいうのが。貴方達ってお尻を虹色に光らせて、その強弱とか何色が多いとか少ないで感情を表現するでしょう?その感覚を持っていない私には分かりにくくって……」
蛍光ちゃんはもっともなことを言った。ケツを光らせる文明が行き着く先はゲーミングケツだった。単色なら蛍光ちゃんも覚えられただろうが、これは流石に無理だろう。
「それに単色のピンクは初めて見たわ。どういう意味だったの?」
「そ、それは……」
僕のケツがピッカー!とピンクに輝いた。ほらそれと蛍光ちゃんが僕のケツを指指してる。クソッ!ケツは簡単に正直になってくれるのに、何で言葉ってヤツはこんなにもどかしくて喉からするりと出てくれないんだろう。こんなんに頼っていたのか人類!そりゃ気持ちを伝えるのがどれだけ難しかったことか!
いや、僕。ちゃんと蛍光ちゃんに伝えるって決めたんだろう。僕。蛍光ちゃんに分かってもらいたいんだろう。僕。やってやろうぜ、僕!
息を吸って、吐いて、言った。
「僕は蛍光ちゃんが好きなんだ。大好きなんだ。初めて会った時からずっと」
初めて会った時は単なる一目惚れだった。でも、それから蛍光ちゃんとの相互理解のために勉強するうちに、彼女はなんて努力家で美しいんだろうと思った。
今ではもう、彼女の全てが好きだった。彼女の全てを愛していた。
僕の思いにケツが輝く。でも
「このピンクの光は「恋」なんだ。僕は蛍光ちゃんの特別になりたい」
「蛍光ちゃん、僕と付き合って下さい!」
僕は祈った。祈りの形はもう何回もやったから自然と指が絡み合った。頭が自然に少しだけ下がった。目だけは逸らさなかった。
次の瞬間、僕の目にピンク色のイナズマが光った。
いや、それはイナズマなんかではなく。蛍光ちゃんのケツがめちゃくちゃピンクに光ったからだった。
「……あのね、豆電くん」
「はい!?」
呆然とピンク色の光を見つめる僕は蛍光ちゃんから話しかけられて盛大に声を裏返した。蛍光ちゃんはいつもの無表情でケツだけが盛大にピンクだった。
「少し分からないの。分からないから……返事、待っててくれる?」
蛍光ちゃんはどうやら、自分のケツがピンクに輝いていることに気付いていないようだった。分かるよ。僕のケツの光でそもそも周辺全部ピンクのライトアップみたいだったもんね。かき消されるってもんよ。
いや、多分蛍光ちゃん僕のこと好きやろがい。ケツのピンクの光が全てを物語っとるやろがい。
でも、僕はそんなことは言わない。
「うん。いつまでも待つよ。待ってるよ。いつまでも好きだよ。大好きだよ」
「───ありがとう。豆電くん」
蛍光ちゃんは微笑んだ。
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