セイレーンのその先に

失恋、しました。

『王子様』に……。


この世界では『王子様』に失恋した『お姫様』は怪物へと成り果てる。

その名も『セイレーン』。別名『失恋姫』だ。


セイレーンは怖い。翼から鋭い羽根を飛ばして攻撃して来たり、突進して首を切断しようとしたり。

だから、そんな怪物から『お姫様』は『王子様』に守って貰うのだ。


そう、そんな『お姫様』に。

私も少し前までは、なれていた――


「何、これ……」

自分から生えた翼を見て愕然とする。

まだ上手くは動かせないが、確かに自分の体の一部だ。

新しい羽根は真っ白。私がセイレーンになりたてで、今は(取り敢えず)脅威度が高くは無い事を示している。

そう、長年生きていたり『甚大な被害』を出すセイレーンは、どんどんと羽根が黒くなるもの。

もちろん、普通のセイレーンだって恐怖の対象なのだけれど、黒っぽい羽根のセイレーンなんて見たら……


「あの〜……」

「はい?」

急に声を掛けられて、思わず振り返った。


「……」

何気なく見た、その声の主は。


「……!」

漆黒の羽根を持つ男性……!


「き……」

「あの、俺は」

「きゃー!!」

「うわー、やっぱりー!」


真っ黒な翼のセイレーンだなんて、お姫様を執拗に狙っては攻撃してくる恐ろしい怪物!

しかも今の私には……

側に守ってくれる『王子様』がいない!


「やめて、攻撃しないで……!」

「わぁっ!」

私が必死に拒絶すると、白い羽根がカッターの刃の様に放たれる。

「いてっ、いてて……」

「あ……」

黒い翼のセイレーンは、それを腕で庇ったけれど幾つもの傷が出来た。

というか、私……。今、攻撃をしてしまった……!


ショックで固まっていると、目の前のセイレーンがそろそろと私に近付く。

「大丈夫? もう落ち着いた?」

「ご、ごめんなさい!」

私は、慌てて頭を下げた。

「私……まだ、セイレーンになったばかりで。こんな、いきなり羽根が飛ぶなんて知らなくて……!」

「あー、それは俺も一緒」

「え?」

「セイレーンになりたてホヤホヤなんだよ」

「で、でも、その翼……」

「だよなー。なんでいきなり真っ黒なんだろ。というか、男のセイレーンって聞いた事が無いし」

確かに。セイレーンは『お姫様がなるもの』と決まっている……と思っていた。


「色々とイレギュラーだから、こんなに羽根も黒いのかなぁ……」

ちょいちょい、と自分の翼を引っ張る仕草に。

「ふふっ……」

不謹慎ながらも、私は笑ってしまった。


こうして、セイレーン1年生(?)の私達は出会った。

お互い、まだまだ自分の事も分からなかったけれど『一人じゃ無い』というのが心強い。


「改めまして――初めまして」

これは、セイレーンバースという世界で出会った『二人の駆け出しセイレーン』の物語。

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