セイレーンバースの世界で。

セイレーン。それはこの世界での、いわゆる怪物の名前。


『失恋姫』とも呼ばれるセイレーンは、『王子様(プリンス)』に選ばれなかった『お姫様(プリンセス)』の行き着く先だ。

失恋したお姫様には翼が生えて、怪物へと変質してしまうのが世界のルール。

しかも、最初は純白の羽根だったセイレーンも時間や与えた被害と比例するかの様に、どんどんと黒い羽根になってしまう。

真っ黒な翼の色なんて、どれたけ危険視されるか分かったものじゃない……のに。


「なんで俺は最初から黒い羽根なんだよ……」

自分の翼を見て、俺は目眩を覚えた。


そもそも。

セイレーンは失恋した『お姫様』が変貌したものだ。

『お姫様』は『王子様』と結ばれる事が出来るが、セイレーンになるリスクもあるので『役なし(プレーン)』として生きていく者も多い。


なお、この世界での役割はこの四つ。

つまり男性として生まれてきたからには、全員が王子様という役割を背負ってお姫様を守る。

……というのが、世界や俺の常識だった。


「でも、失恋したら男でもセイレーンになるなんてなぁ……」

本当に、こんな事は学校でも教えてくれなかった。

これから、俺はどうしたら良いんだろう……。


「と、取り敢えず別のセイレーンをナンパ、とかかな……?」

半ば混乱しつつも、俺は取り敢えずそんな事を考えた。

もちろん、まだ失恋の痛手が癒えた訳では無いので『本気で誰かと結ばれる』つもりは無いが……。


しかし半ばヤケになっていた俺は、他のセイレーンを探しに飛び立ってみたのであった。

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