第39話

さて、好天にも恵まれ絶好の建築日和である。


今回メインに使うのは石材のため、一族と客分総掛かりでの作業だ。


地均し、基礎柱埋めは前回と変わらず。ピンと張ったロープに沿って垂直水平を保ってもらう。


城と言えば、四方に作りつける尖塔だとか、星型の塁壁なんかも思い浮かぶが、技術的に手間をとる割には効果が疑問視される類の施設なのでその辺は割愛する。


空飛ぶ大トカゲや、単騎で戦車砲をぶちかます身内が居る世界だしね。軍事的な優位性よりは頑丈さなのだ。


「それじゃ、レーレ。後は頼むよ」


「任せておけ。プリンセは石材の切り出しに集中してくれればいい」


前回と異なるのは、要所要所を任せるに足る人員の追加だ。


労力は変わらずとも、現場監督が居れば持ち場の作業に集中できるために効率よく仕事が回る。


無心で石を切っては、アプリ―リルが指揮する物流チームにゆだねていく。


途中で昼休憩を挟んだものの、ほぼぶっ通しで石ブロックを量産し続けた。


結構な量を作ったと思ったが、日が沈むまで作業しても出来上がったのは1/3程度だった。砦の外周をぐるりと覆う訳だから、やはり必要量は多い。


「不満そうだが。普通は半年から一年以上程度かけて作るものだからな?」


半眼でレーレが指摘を入れてくる。魔法も駆使しているし、力仕事はトロルの得意分野だから色々感覚が違ってきているのだろう。


なお夜間の間も、疲れ知らずのグールさん達が石積みは継続してくれるらしい。ありがたい。


反面、付き合わされてセメントやら漆喰やら資材の補充に掛かり切りにさせられたルーザは疲労困憊だ。


「はー……おい、プリンセさまよ。真剣まじに大理石で床を葺いたけど、ダンスでもすんのかよ」


ダンジョンハートに石板タイルを生成させては敷き詰めるという単純作業がだいぶ堪えたらしい。


「一応は、多目的に使える大広間を想定してるよ。いい仕事してるねルーザ」


メインホールはだいぶ大きく間取りをとった。


その気になればコンサートでもミサでも開ける縦長の作りだ。奥は一段高くしてあるため、玉座を据えれば謁見の間に早変わりである。


大理石を使ったのは、見た目にもいいが清掃が楽なのだ。こすらなくともモップでひと拭きすれば綺麗になるからね。後々の生活環境改善のためだ。


「働きを認めるって言うなら、アタシらの要望にも応えてくれるのか?」


ふむ。現状にはまあ不満があるだろう扱いだが、あまり自由にさせる訳にはいかない。


合流した経緯もそうであるが、この迷宮コンビに独自勢力を作られれば、群れごと呑まれる可能性がある。


他所では迷宮氾濫スタンピードという災害もあるそうだしね。油断はできない。


「ものにも寄るけどね。個室や食事を共にする機会くらいだったら叶えてあげられるけど」


融通できる特典としては生活環境の向上くらいだろうか。戦いたい、鍛錬したいというのであれば適当な一族トロルに相手させるのも吝かではないが。


「要らねぇよそんなもん。アタシらが欲しいのは―――迷宮ダンジョンだ」


それこそ正に、叶える訳にはいかない要望の筆頭だ。


攻略戦において正真正銘、命の危機を感じたのは記憶に新しい。


厳しい表情と沈黙を返す私に、流石にちゃんと妥協点を考えて来ていたのかルーザが続ける。


「勿論、無制限に作らせるわけにいかねぇってのは分かってる。配下の手下も含めてな。だが、現状が落ち着かねぇってのは判んだろ」


素材の変換はダンジョンハートの機能であるが、それはあくまで自身の迷宮を作った上での余力だ。


ヤドカリが殻を持たずに過ごし続けているようなもので、不自然なのは理解できる。


どうしても危険性がちらつくが、一応数日過ごして迷宮心臓ダンジョンハートの性能も限界も分かって来てはいる。


「1フロア。機能としては地下牢だ。定期的に人を寄越せば、妙な事にはなりはしねぇってのは証明してきた筈だよな」


ルーザは呪いに蝕まれて嘘がつけない。ダンジョンハートの生成・変換速度を考えれば、ひと月以上放置するでもなければ当面問題はないだろうが。


「妙なこと企んでないよね?」


一応念押しして確認はしておく。素直に返事が返ってきたので、今回は単純に地に足つけたいだけか。


許可をしてあげると、ルーザは飛び上がったりこそしないが、あからさまに気合が入った顔つきになる。


モチベーションが上がったようで何よりだ。


いざという時の備えとしてあってもいい施設だし、破壊や脱出が困難な地下牢は迷宮ダンジョンの特性を如何なく発揮する施設だ。


ルーザも管理人として在住することになるし、流石によく考えられている。


「まずは上物の城が出来てからだけどね。手は抜かないでよ?」


あくまで成功報酬、まだ流してもいない汗に報いる報酬はないのだ。


「任せろ。何なら煌びやかなシャンデリアも用意してやるぜ。スイッチ一つで落下する奴」


罠はいらない。どうにもルーザも迷宮の影響を免れないのか、人を嵌めることに余念がない。


本来矯正してあげる義理もないのだが、一応は曲りなりとも上役にして新たに作る城の一員である。


上機嫌で追加の資材を引っ張り出す彼女を横目に、今後の教育に頭を悩ませた。

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