第16話
「そんな訳なので、今日から石工をやって行きます」
「プリンセ様。それは良いんですが、私も。ですか?」
砦の為に石材を切りだした岩場には、プリンセともう一人若いトロルを呼びつけている。
彼の名は
別に喋れない訳ではないみたいだけれど、とにかく寡黙なのだ。
「切り出した石材は、サイレスに運んでもらうよ。アプリ―リルは、石にラインを引いて貰うのと、魔法発現のための訓練だね」
1段の高さを20cmとして、30段もあれば6m。建物の2階分程度の高さは稼げるのでそれほど数をこなさずともできる計算だ。
その後の聖堂掘り抜きには少々手間はかかるだろうけれど、工程のほとんどが土の精霊による魔法なのである。あわよくばとの考えだ。
すでに石柱を切り出した後の岩場なので、ほぼ垂直に削れている壁の壁面を斜め上に掘っていく。
半ば程度まで登ったら、向きを返して同様に掘る。踊り場は、滑落防止に必要だからね。
ブロック状に岩を割り、踏面と蹴上はアプリ―リルのつけてくれる目印に従って真っすぐ掘っていく。
サイレスは黙々と岩を担いでは積み下ろしてくれる。アプリ―リルでは持ち上げられないし、私も精霊への指示に掛かりきりだから正直助かる。
むしろ、操作を誤らないかの気疲れの方が大きいかもしれない。
一度割った岩をまた元に戻すような、器用な真似は流石にできないから結構気を遣う。
トロルであろうと悠々と通れるだけのトンネルと階段は、二人の尽力もあってか半日もしない間に掘り終わった。
「やっぱり使えると便利ですよね。魔法……」
「ん。色々助かってるよ」
特に相棒でもある
そしてふと気づいたのだが。
便利使いしている私が言うのもなんだけれど、必要であるからというのは、友情を交わすのに程遠い心境なのではないだろうか。
需要と供給のバランスに寄って立つ商売の相手ではないのだ。魔力の供給も、こちらの世に干渉する為に必要なコストであるようだし。
使えると便利だからと言われて、友達になろうとする相手はなかなか居ない。
砂漠において水の精霊の人気は絶大だろう。しかし、砂漠は水の精霊にとって快適とは言いづらい環境である。
欲得ずくであるのなら、普人族とかもっと精霊使いで溢れていてもおかしくない気がするし。
前世においては、神の子すら金銭でやり取りしてた種族だ。相性重視の契約に、他所事を持ち込んで来るのはどうも嫌われそうであるが。
それでも世に数体くらいは、借金漬けになって子々孫々まで面倒を見るように申し渡された精霊とか居そうではある。
休憩がてらに変なところに思考が巡っていた。
岩肌をくりぬくように作られた二つ折の階段と、これから掘り進める壁面。
その突端となる、階段上の踊り場で3人揃って休憩していたら、いつのまにやらお金について考えていた。
流石はもっとも血に濡れた概念と呼ばれるだけはある、業が深い。
聖堂を作るにあたって心洗われるどころか、世俗に塗れた余計な思考を巡らせつつ、本命の拝殿作りである。
元より、センスのなさを規模で誤魔化そうという試みだ。凝った装飾など望むべくもない。
岩肌をくりぬき、採光の為の穴を設ける。
床や壁、天井をなるべく丁寧に平坦に削る。大理石でもあれば良かったのだが、近くで産出するものではなさそうだ。
奥まった場所に、一段高い台座とさらに高座を設け、シンボルである七芒星を刻んだ岩を安置する。
技術的には簡素も簡素であるが、きちんと
きっと訳も分からず手伝っていたんだろうなと確信できる
いや、単にぼけっとしているだけだろうか。粗暴ではないが別段利発な訳でもないのだ、彼もまたトロルである。
「祈っていこうか。アプリ―リル」
「はい。プリンセ様」
敬虔なる信徒とはとても言えないが、日々を穏やかに暮らせていることへの感謝を伝えるくらいは構わないだろう。
この世界において、神は優しく寄り添ってくれている。
時には力すら添えてくれる。それは、この世界に生きる者がまだまだ未熟であるが故なのかもしれない。
スッキリとした気分で階段を下っていたら、最後の最後で踏み外して足首を捻って悲鳴を上げ。
無言のままで癒しの奇跡を発現させた
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