第13話
「――よし、印をつけたところから割っていって!」
土の下級精霊が頷くと、ピキピキと墨を入れた線の通りに真っすぐ岩が割れていく。
パルテノン神殿の柱みたいな石柱をガンガン量産していく。
四隅と壁面、補強を入れて12本。安定のため、柱の半ばまでを土に埋める心積もりだ。
その後は、土を叩き締め、砂利を撒いて、砂を敷き、石畳を並べていけば基礎としては十分だろう。
気合を入れて臨んだとはいえ、中々の作業量。ここまでやる必要あったかなと正気に返りかけるが、健康で文化的な生活の為と己を鼓舞して頑張る。
結構な部分は自己満足であるのだが、両親や仲間達にもよい住まいで快適に過ごして欲しい。
こういった気質が、私と
出来上がれば、ブラウンも十全に力を発揮できるだろう。
内装は、木組みや板材を以て仕上げていくため今日明日に直ぐという訳にはいかないが、それでも基礎さえ出来上がってしまえばあとはサクサク進むだろう。
これで石膏でもあれば白亜のお城に出来るのだが、流石にそれは望み過ぎか。
少々厳つい、実用重視な灰色の戦城の風情が漂いそうではある。
「……彫刻とか、入れるべきかな。こう女の人が柱になって支えてるような」
あ、うん。ごめん、土の下級精霊さん。美術・芸術品は要求が無茶すぎるか。
そうなると、自らが彫るしかないわけだけれど。
「どう考えても不気味な人柱にしかならなさそう」
柱に塗り込められた人型のナニカを日常的に眺めて過ごすのはご遠慮したい。
素直に
なにせよまずは、大枠。基礎と柱さえきちんと建ててしまえば、そう簡単に崩れるような事もないだろう。
「プリンセ。おで、あなほった!!」
丁度良く報告に来た、スコップを掲げる父を促して石柱を運んでもらう。
他にも4~5人ついて来てたので、そちらは2人一組での運搬だ。結構な太さで切り出した為、トロルでも容易に動かせない重さとなる。
「うぐぐ。お、おで、がんばる……」
少々、太くし過ぎたかもしれない。今日のご飯は、取引で得た希少な香辛料をふんだんに効かせたものを振舞う事にしよう。
柱が建てば後は早い。日本でも棟上げといって、骨組みさえ出来ればあとはあっという間に家になるのだ。
丸太を切り出して皮を剥ぎ、縦横に渡し組んでいく。建材として使うなら、乾燥させるべきなのだろう。
伸び縮みによる多少の狂いより、壁と屋根を作ることを優先した選択だ。
それに、
流石に外壁や、煙突などの火を扱う場所。荷重の掛かる階段などは石で組んだが内側はほぼ木製。
斧で削り出すのではなく、ノコギリで挽くことにより板でも柱でもガンガン量産できたのも大きい。
畑にして3面分程度の森が切株になるころには、2階+屋上の立派な砦が出来上がるのだった。
「勢いで作った割にはいい出来じゃないかな」
「たいへん立派な砦ですよ。今後は生活の場はこちらに移すんですか?」
様子を見ながら徐々に、かな。元々の洞窟は砦の奥に取り込むように作ったし、内壁は割と気分でぶち抜いたり、当て込んだりできる。
「まぁ、みんなが気に入ってくれればね」
必要そうな設備は、追々といった所なのだが、折角なのでトロル全員にそれぞれ1台。ベッドを用意してみた。
太い木材でフレームを作り、イグサモドキを充填。上に大判のシーツを被せた簡素なものであるがまぎれもない個人の寝床である。
トロルは、硬い洞窟の床でも熟睡できる頑健な種族ではあるが、別に好きで地べたに寝ている訳でもないのだ。
身体は痛まないが、手足を伸ばして横になって眠るのは縮こまって寝るより開放感がある。
そして何より温かい。地面は意外なほど体温を奪うのだ。
慣れないであろうから、まずは4人部屋を作り、これはそれぞれの物であることを根気良く教え込む。
快適さに目を丸くする仲間たちには、中々のものでしょうとドヤ顔を返しておくのだ。
しばらくして、寝る時はここ。ご飯の時は食堂、と生活空間を分けることで、トロルの物覚えからすると驚異的な速さで浸透していった。
寝所は分けたが、それでも食事は共にとる。
トロルにとって、食べる物を分け合うのは酷く重要な要素なのだ。
食堂には長机と丸木椅子を用意した。テーブルクロスは掛かっていないが、地べたに座り込んで食べるよりよほど見た目が良くなった。
厳めしく厳かに、とはとても言えないが、中々に文化的になったと言えるだろう。
燭台のロウソクまで齧っていたのには目をつぶる。うん、食器を齧らなかっただけまだいいか。
一階は全て石畳の床であり、掃除をしやすくしている。水で流してブラシで擦るだけだからね。
二階は荷重の掛かる所を除いて、木床となっている。
素朴と言えば聞こえは良いが、飾り気のないシンプルな板壁に、まだ用途の決まってない幾つかの部屋。
一応、私とアプリ―リル。王と王妃の部屋もこちらに用意した。
全てのトロルが上階へあがるとさすがに床が抜けるかもしれないので、制限した形だ。
他の寝台に比べて、倍くらいある
大イビキをかきながら、丸い腹が膨らんだり、より大きくなったりするのを見ると、かつて見た毛むくじゃらの隣人のアニメを思い出す。
そういえば、あれも仮称はトロルだったか。
比べれば少々厳ついが、慣れれば愛嬌のないことも―――うん。ちょっと厳しいかもしれない。
国民的人気は得られそうにないが、新しい住居には満足してくれたのだろう。
一国一城の主として、今後も一族を率いて行ってくれることを願うのみだ。
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