第12話

「ぐふ。ぐふふふふ」


私は今、実にゆるんだ表情を浮かべていると思う。


念願だった行商人との取引を終え、欲しかった物資が豊富に取り揃えられたのだ。


短躯族ドワーフの行商人イグニからは、主に鉄器と工具に、針。


有翼族フォルクの行商人ヴィンディアからは、木綿布と縄、植物の種や苗をたくさん譲ってもらった。


やはり、少人数で何でもかんでも熟していくのには限界もあるし、何よりこの近辺では手に入らないようなものも入手できるのは大きい。


二人には、三月に一度くらいは顔を出してくれるようお願いもしたし、今後は必要ならば受注生産もしてもらえるだろう。


対価も比較的安く済んだ。今まで作っていた銀器や布が、想定より希少なものだったことに加えて、あのトロルマタギのお酒。


ブラウンも気に入っていたが、二人に名前を預けた火と風の精霊が殊の外嗜好しこうに合ったらしい。


旅するの止めてここに住まうとゴネかけていたのを、どうにかなだめすかして連れて行ったのだ。


必然、一定量のお酒は買っていかざるを得ないわけで。


味を見た二人も、杯が進んでいたようだしお気に召したのだろう。今度来る時までに増産を、と約束させられた。


ならば、成し遂げねばなるまいよ。


「やりますか。トロル大城塞化計画を」


ノコギリと縄を手に、私は野望に打ち震えていた。




『それで、まずは穴掘りだっけ?』


仕事道具の入手に、気の大きくなった私が一晩で書き上げた図面を手に、ブラウンが首をかしげる。


古家精ブラウニーは、お屋敷や城に住まう者で在るからして、建てるのは管轄外だろう。


「そう。今ある岩山と、洞窟と小川を抱きこむような形にしたいんだよね」


水堀で囲い、土台に石の基礎を埋めて出来るだけ頑丈にしたい。


トロルの体重を支えることを考えて、スケールは人間の倍を想定する。


勿論建築学なんて学んだことはないので、強度計算は適当だけれど。


「精霊魔法に頼れたら、だいぶ楽なんだけれど……」


『多少穴を掘る程度なら下級精霊でも行けるけど、ここまで大規模だと中級以上だろうねぇ』


実は精霊にもランクがあるそうなのだ。主に力の強さで分けられているそうで、下級・中級・上級・王族の四分類。


その中だと、ブラウンは中級の古家精ブラウニーといった辺り。


私は、中級精霊であるブラウンと名前を交わし。下級精霊にお願いを聞いて貰える程度。


精霊使いとして見れば、中堅どころといったところである。


修練でも知覚できる精霊の範囲は伸びるそうだが、基本は相性。


互いに好ましいと思う相手でないと、名を交わすことは出来ないのだとか。


「成長を待つくらいなら、みんなで掘った方が早いかな」


王サマキングに頼むのは? あの人、上級精霊と特に名を交わしてもいないのに、地揺れの魔法使ってたよね』


法則に当てはめると、父が名を交わして友となった相手は精霊王の類なのだろうか。


生憎と目にしたことはないのだが、どっちにせよ父に頼むのは難しいだろう。


「お願いしたら、喜び勇んで掘ってくれるとは思うのよ。――自分の手で」


『ああ。うん……そうだね。王サマキングならそうなるね』


人型ブルドーザーを10数台使える立場で、楽をしようとするのが間違いか。


石材の切り出しは、私がやらなければならない。縄張りを済ませて、あとは任せよう。

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