長旅

学生作家志望

途中下車

どこか遠くの町へ行きたい。いいや、町じゃなくていい。ほとんど人もいないような村が1番だ。


なぜここまで苦労をしなければならないのだろうか。


35になった今に思い返せば、ここまでの人生は山と谷ばかり、困難ばかりの人生だった。


山を越えて、やっと頂上へきたと思えば今度は谷が待っていたり。かと言ってその大きな谷や山を越えたところで綺麗な景色など待っていない。


じゃあ何のための苦労なのだろう?僕は何度もそんなことを考えてきた。でもいくら考えたって答えは出てこない。唯一出てきたのは、「死にたい」という本音。


死んだって悲しむやつなんていないだろうし、死んだってなんも悪くないじゃないか。


相談する相手もいないからSNSに同じようなことを書き込んだ。深夜であるにも関わらず、その投稿には一瞬でメッセージがついた。


「死にたければ勝手に死ねば?」


「人に迷惑かけないように死になよ。」


「簡単にそんなこと言うんじゃねえよ!」


「がんばれー」


「もっと生きろ、大丈夫だから。がんばれ」



どんなメッセージだって僕にとっては軽いものにしか見えない。


死にたければ死ねば、これは確かに僕が考える上では1番真っ当な言葉だと思う。わざわざSNSにこんなことを書き込む自分の頭は、きっといかれてるんだ。


がんばれという言葉も、ただの偽善にしか見えなくなってしまった。ネットに腐るほどある名言集を少しいじったようなものを送ってきて、そんなもので元気が出るようなものだろうか?残念だが、そんなに浅いものではない。


第一に、がんばれとは言うが何を頑張れという?これ以上、何を望む?頑張ったから僕は今こうやって涙を飲んでいる。


頑張った回数分、涙が出てしまうのが人間の摂理だと僕は思う。


なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。SNSにこんなことを投稿して、自分に都合のいいような意見には頷き、反対には反論をぶつける。


これが僕のダメなところ。都合のいいところだけ見て、他はそっぽ向いて放置。


山を越えたような気がしていても、きっと僕はひとつも越えてなんていなかったんだろう。


はあ、この長い長い旅は、いつまでもどこまでも続くのだろうか。



人生はまるで快速列車のよう。永遠に続いて、ただ前だけを見続けるその列車は、途中駅に少しだけ止まるばかりで、後ろへ引き返すことは一度もしなかった。



満員電車の中で差し詰め状態になって、毎日毎日苦しんで、涙を流して、それでももみくちゃにされて。



早く終わってくれ、早く、早く。



途中駅で降りる人を何人も見てきた。終点につくのはいったい何人だろう。



僕は部屋に1人、スマホのブルーライトを浴びながら、キッチンにあったまだ新品のナイフを持った。



「駅についたよ。」



「この駅で降りてしまおうか。」



ナイフを喉仏につきさして、思いっきり横に切り裂いた。流れる血、鮮やかな最後の光景だった。



これで、途中下車である。

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