第14話 過去①
私は昔の夢を見た。
過去の自分の夢……。
「お前、家に親いねぇーのかよ」
「ハハっ、いつもクラスの隅でウジウジしてるよな」
「女子の集団からもハブられていつも一人だもんな」
「おい、そんなに言ったら北原『奈季』が、またアイツに『泣き』つくぞ!」
普段は、無視されたりちょっと揶揄われたりするぐらいだけど授業参観があった次の日は、いつもこうやって男子達の格好の的になる。
お父さんは、お仕事が深夜で学校行事には来れないしお母さんは数年前に亡くなった。
私は、クラスでいつも孤立していた。
でも……。
「おい!やめろ!」
「やべ!隣のクラスの岸辺だ!」
「いつも通り来やがったな。逃げろー!」
彼だけが、いつも私の味方をしてくれる。
「大丈夫か、奈季?」
「……うん」
「ほら、もう放課後だぞ。帰ろ」
私は、こうやって頼に守られてた。
この時の頼は友達もちゃんといて自分の付き合いがあるのに私をいつも優先してくれていた。
「頼、ごめんね……」
「ほら、また直ぐに謝る。奈季は何も悪くないだろう?早く帰ってアニメの続き見よう」
学校の帰り道、頼は私の手を取って隣を歩いてくれる。
小学校高学年になった私は、手を繋ぐ事が少し恥ずかしかったけれど頼の隣にいられる事が心地良くて幸せだった。
「あ、た、ただいま。父さん……」
私たちの住むマンションに帰ってくると、頼の部屋(家)の前で彼の父親の姿が見えた。
頼のお父さんも、どこかから帰って来たところのようだった。
服装は寝巻に近い感じで目つきが悪く髭も剃っていない。
「こ、こんにち……は」
「北原さんの娘か……。頼、俺は寝るから静かにしてろよ」
「……うん。おやすみなさい」
私は、この人がすごく苦手だった。
頼の暖かくて優しい性格とは真逆で冷たい雰囲気を醸し出しているからだ。
この人の姿が見えなくなるまで私は、頼の握ってくれている手を強く握り返した。
自宅に戻ると、頼と一緒に私の部屋(家)でアニメの録画を見てお菓子を食べたり、一緒に勉強したり……そんな毎日が私の日常だった。
「ねえ、頼のお父さん、もうお仕事から帰ってきてたの?その、服装もお家にいるみたいだったから」
「……多分、パチンコに行ってたのかな」
「え、お仕事は?」
「最近、上司の人と揉めて辞めちゃったみたい……。父さんも色々あって疲れてるんだよ。だから今は、このままでいいんだ」
そういって優しく微笑んでいた頼が無理をして笑顔を作っていたことに、当時幼すぎた私が気づくことはなかった。
そんなこんなで私と頼は中学生になった。
中学生になると、私に嫌がらせをしていた男子たちも幼稚な事はしなくなっていた。
……でも、本当に辛い出来事はここからだった。
「なあ、北原さん。めっちゃ良いよな?」
「なんか最近可愛い系から美人系にもなってきたしな」
「でも、ほら北原さんにはアイツがいるし」
「岸辺だろ?仲良くて羨ましいぜ。でも文句言えないよな」
「ああ、岸辺は普通に良い奴だし。美男美女のコンビだしな」
この当時、私は自分の容姿が男子たちから好感を持たれているということに気が付いていなかった。
後から知った話だが、私は学園のアイドルという愛称で男子たちの中で呼ばれていたそうだ。
男子生徒から受けが良い私の事が、一部の同性たちは面白く思っていないようだった。
「北原、マジでウザくね?いつも岸辺君の後ろに隠れてさ」
「そうそう。完全に岸辺君に対してブリっ子だよね」
こんな女子生徒の陰口が聞こえてくるのは、日常茶飯事だった。
中学で親友になった沙也加と頼にも気にするなと言われていたけれど……。
そんなある日、今までの状況を一変する出来事が起きた。
私は、いつも頼と学校の登下校を共にしているため、その日の放課後も正門前で頼の事を待っていた。
しかし、なかなか彼が現れなかったため周囲を探しに行くと女子生徒数名と頼が体育館裏へ向かっていくのが見えた。
私は、心配になり後を追い見つからないように聞き耳を立てていた。
よく見ると、その女子生徒数名は私の事を普段から目の敵にしている人たちだった。
「岸辺君、私と恋人になってほしいんだけど」
「ごめん。誰かと付き合うとか今は考えてないから」
(告白か……頼はモテるって沙也加もいってたしなぁ。……なんか、すごいモヤモヤする)
「そっか。じゃあ、友達からっていうのはどうかな?ほら、一緒に帰るとか休みの日遊ぶとか」
「ごめん。それは先約があって君とは一緒にいられない」
「それって、北原さんの事?」
私は、その時心臓が縮み上がった。
「そうだったら、なにか問題ある?」
「別に~そういえば、前に北原さんに聞いたことあるんだけど……岸辺君の事どう思ってるかって」
(え?なにそれ。私、そんな事聞かれてない)
「正直、ウザいって言ってたよ。付き纏ってきてストーカーみたいだって。岸辺君、せっかく北原さんのこと気にかけてるのに酷いよね~」
(違う!私そんなこと言ってない。絶対に言わない!)
「そっか。言いたいことは、それだけ?じゃあ、俺はもう行くから」
「待ってよ、岸辺君。何とも思わないの?親切にしてるのに、こんなこと言われて」
「俺は、君たちの言葉を信用してないから何とも思わないよ。あとこれ以上、奈季に……北原さんに何かしたらこっちも容赦しないから」
「え?は!?何のこと?何言ってんの」
「先週も北原さんの教科書が無くなったり体操服がゴミ箱にあったり……まあ、色々あるけど。匿名の目撃情報でも君たちが教科書や体操服を持ち出したって話もあるし。先生から警告も受けたよね?」
「あ~確かに何も分かってない先生にも注意されたよ。酷いよね証拠もないのに、岸辺君もそうだよ。私たちが犯人って証拠でもあるの?」
「ないよ。でも次何かしてきたら証拠は押さえるつもりだし、その時は先生だけじゃなくて保護者の人も含めて色々と話させてもらうよ。大切な進路のことも考える時期になってるし利口な行動を心掛けてね。それじゃあ」
「……っ!」
私は、慌ててその場を後にして正門前に戻った。
その女子生徒たちは、ぐうの音も出ない様子だった。
私を目の敵にしてるグループって今そこにいる人たちだけだし……あの反応を見ても彼女たちが犯人なんだろう。
多分、頼も先生も匿名で目撃情報を出してくれた人も皆が対応してくれたから、犯人が分かっていたから先週を最後に私へのイジメや嫌がらせが激減したんだ。
本当に感謝してる。
……でも、私にもっと勇気があれば……頼みたいに発言できる強さがあれば、色々な人に心配掛けずに自己解決できたかもしれない。
私は、本当に弱い人間だ。
「奈季、お待たせ。帰ろう」
「うん!」
なんだろう?
なんで、こんなに気持ちが高ぶるんだろう?
頼が私の名前を呼んでくれるだけで、頼が私の傍にいてくれるだけで……こんなにも満たされる。
さっき、私のために行動してくれたから?
……違う。
きっと、もうずっと前から……。
私の初恋は始まっていたんだ。
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