第8話 春休み
海星学園高等学校へ入学してから一年間のカリキュラムを終えて、俺たちは春休みを迎えた。
冬休みと比べても海星学園の春休みはかなり短めだが、進学校で勉強などに忙しくしていた生徒からすれば青春を謳歌するのに貴重な時間だといえる。
(今日は、待ちに待った推してるラノベの最新刊発売日……今から本屋に行くのが楽しみだ)
日課の早朝ランニングをしながら、そんなことを考える。
まあ、俺のように自発的に人と関わることをしないものにとっては青春というものは縁遠い存在と言えるのだろう。
ランニングを終えて、帰宅しシャワーを浴び洗濯に朝食の準備といつものルーティンをこなす。
俺は、朝食を食べ終わり家事を一通りこなした後、今日発売のラノベ新刊の前の巻を復習してモチベーションを上げる。
そうこうしている内に、時刻は午前10時30分を回っていた。
(はあ~昨日、約束したのにな……)
ルーティンといえば、俺のベッドでいびきをかきながら眠る容姿端麗な少女を起こすのも日課になっている。
「結局、自分で起きないし……」
奈季の頬を、いつものように2,3度軽くビンタして意識を覚醒させる。
「ん~ん、ん」
「おい、今日は仲良い友達とカフェに行くんだろう?もう11時前だぞ」
「は?!」
俺が声を掛けると、奈季は素早く上半身を起こしてスマホを確認する。
「なんで、もっと早く起こしてくれないの!?」
「いや、自分で起きるって約束しただろう」
俺の返答が気に入らなかったのか、唇を尖らせながらブツブツと文句を言っている。
「もう、11時半に待ち合わせなのに!」
「それなら、急いで準備して電車に乗れば間に合うだろ?」
「シャワー浴びる時間、ないじゃん!」
そう言いながら、俺がいるにも関わらずパジャマを脱いで着替え始める。
「慌てて行くぐらいなら、今のうちに少し遅れるって連絡しとけよ」
「分かってるよ!」
かなり、機嫌が悪いので俺はその場から速やかに去ることに。
俺は一旦外に出て隣の奈季の自宅(家)に合鍵で入りリビングにあるポットでお湯を沸かす。
数分でお湯は沸き、急須にお茶っ葉を入れてお湯を注ぎ、ほうじ茶が完成する。
(そろそろ帰ってくるかな……)
そう思った矢先、玄関の扉は開き待ち人は帰ってきた。
「おかえりなさい。おじさん」
「ああ、ただいま。頼君」
彼は、奈季の父親で仕事は夜勤のため遅ければお昼前に帰ってくる。
湯呑に先ほどのほうじ茶を入れて、おじさんに渡す。
それを受け取ったおじさんは、お茶を啜りとてもおいしそうに飲む。
「ああ、おいしい。頼君、いつもありがとね。奈季の事も」
「いえ、奈季にはいつも俺のほうが元気もらってますし。お風呂沸かしてるんで入ってください。今日は非番ですよね?入浴後何か食べますか?」
「実は、今日欠員が出てね。夕方にまた行かなくちゃならないんだ。お風呂いただいたらそのまま寝るから大丈夫だよ。それより、今日から春休みだろ?僕の事は気にしないで、しっかり羽を伸ばすんだよ」
そう言い、おじさんは鞄を置いて風呂場へと向かう。
おじさんは、とてもゆったりとした人柄でその優しい立ち振る舞いが俺は大好きだ。
(欠員か……大変だな。夜勤ばかりだし、体調は大丈夫だろうか)
「じゃあ、俺戻りますね。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
脱衣所にいるおじさんに声を掛けて、自分の部屋(家)に戻ると奈季が身支度を済ませたようだった。
「あ、お父さん帰ってきてた?」
「うん。今日も仕事みたいだから寝るって言ってたよ」
「昔から風邪とかには無縁な人だけど体調大丈夫かな……」
「見た感じ問題は、無さそうだったよ」
「そっか。じゃあ、私行ってくるから。18時までには帰ると思う」
「了解。気をつけてな」
奈季をお見送った後、俺もすぐに出かけることにした。
今日、向かうのは電車で20分ほどで到着する都会にある大きな書店だ。
わざわざ遠くの書店に赴く目的としては、そこで目的のラノベを購入すると作中に登場するキャラクターのしおりが付属されている。
自宅を出て、電車に乗り込み目的地への到着を心待ちにする。
いくら推している作品とはいえ、電車に乗ってまで特典のしおりを入手しに行くなんて……俺のオタク愛もより高まってきているのだろうか。
程なくして電車は目的地に到着し、俺は書店に向かい歩みを進める。
(平日だけど、人多いな。学生は休みだもんな)
多くの行き交う人混みの中を進み、目的の書店へたどり着く。
入店するとすぐに目当ての新刊が大量に並べられており、その光景はいつ見ても壮観である。
その新刊には透明のラッピングが施されており、そこには目視できるようにしおりも挟まれている。
しおりは何種類かありそれぞれのキャラクターがデザインされている。
俺は、目当てのキャラクターのしおりの挟まれた新刊を確認する
(あった、あった。この金髪ロングヘアのヒロインが好きなんだよな)
その新刊に取ろうと手を伸ばした際、俺の隣にいたであろう人も同じものを取ろうとしたのか伸ばした手と接触してしまった。
「あ!す、すみません!」
他人に敏感になってしまう俺は、かなり驚いてしまい反射的に謝罪をした。
「い、いえ。こちらこそすみません」
謝罪の言葉を口にしたお相手の顔が視界に入ったとき、再び俺は驚いた。
「「あ!」」
それは、お相手も同じだったようで。
「ふふ。まさか、こんなところで会うなんてね。頼君」
そこのいたのは、ボーイッシュな服装をした冷夏だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます