第2話 幼馴染
(はあ……、よし!)
少し気合を入れて俺は、駆け込んだトイレを出て教室に向かう。
教室に戻り自分の席に着き、あと数分に迫った予鈴を待つ。
その間も、教室では先ほど廊下であった出来事の話で持ちきりだった。
「さっきの話聞いた?」
「聞いた聞いた!片桐君と北原さんが遂に接触したんでしょ!」
「王子と王女が?!」
「なんか、二人で見つめあってたって!素敵だよね!」
(なんか、話が少し飛躍しているような……胃が痛い……)
程なくして担任が、教室に入ってきて出席を取る。
今日は先週行われたテスト返却をして終了になる。
「よし、全員いるな。では、先週行った学期末試験の返却を行う」
「「「「きゃーーーーー」」」」
「「「「はぁーーーーー」」」」
担任の先生が、そう発言した直後に悲鳴やら溜息やらが教室中を騒然とさせる。
「では、出席番号順に取りに来るように。浅野」
「はい」
「井上」
「はい」
順番にテスト返却が行われていく。
テストは、12科目あり、それらが一気に返却される。
今回のテストは学期末試験ということで、中間テストよりも範囲も科目数も多い。正直、この一年間の中で最も難解だったといえるだろう。
テストを返却された生徒からは落胆している様子が伺える。
今回のテスト平均点は、かなり低いものとなっているのかもしれない。
「片桐」
「はい」
そうこうしている内に、俺の名前が呼ばれる。
今回のテストは、確かに難問がいくつかあったが俺に不安はない。
「片桐、さすがだ。この調子で来年度も頑張れよ」
「はい」
担任にそう声を掛けられ自席へと戻る。
「片桐、先生に声かけられてたぞ。今回も学年1位なのか?」
「多分、そうだろ。この前の中間テスト全教科平均点90点以上だったらしいぜ」
「この学校のテストでそれは、やべーよな。バケモンかよ……。さすが王子」
クラスの男子生徒から嫌味を含んでいそうな会話が、微かに耳に入ってくる。
「片桐に土を付けられる可能性があるとしたら、やっぱり王女ぐらいだよな」
「そうだな。王女様、北原さんは王子に次いで毎回学年2位だからな。結構僅差って話だぜ」
「俺、片桐よりも断然北原さん応援するわ。美人だし、頭良いし運動もできて社交的で気配り出来て言うことねえよ」
「まあ、結局天才同士の対決図になるからなぁ。俺たちには、関係ねえよな」
(……天才、か)
無事テスト返却が終了した。周囲からは、テストの結果に一喜一憂する生徒たちや、もうすぐ春休みだねという会話が聞こえてくる。
「おい、片桐」
鞄を抱えて教室を後にしようとした最中、クラスメイトから声を掛けられた。
「テストお疲れ」
「ああ、お疲れ」
俺に声を掛けてきたのは、浅野太一。
クラスの中でも男女共に人気が高く学級委員を務め生徒会にも所属している。
そして、人見知りな俺が気兼ねなく話すことが出来る数少ない友人だ。
「今日でタイトなスケジュールは終わりだろう?来月には進級してクラス替えだし。これからクラス会なんだけど……来るか?カラオケとかファミレスに行くんだけど」
この浅野という友人は、いつもこうやって俺に声を掛けてくれる。
最初は、あんまり親切なものだから裏があるんじゃないかと思ったこともあるが孤立している俺の事が気になるらしい……。
そう、単純に良い奴なんだ。
でも……。
「いや、遠慮しておくよ……誘ってくれてありがとう」
「……そうか」
浅野は、少し苦笑いを浮かべて俺のもとを去る。
彼の後ろ姿が少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか……。
俺は、教室を後にして靴箱で靴を履き替える。
こんな当たり前の行動をしているだけでも、周囲の生徒たちからの視線が痛い。
まったく、俺は臆病だと痛感する。
学校から帰路に就く。
その途中で、今日の夕飯の献立を考えてスーパーで買い物をする。
(お!新玉ねぎが出ているな。もう春になるもんな。今日はハンバーグにするか)
新玉ねぎに挽肉、野菜などを購入して自宅に帰ってきた。
俺の自宅は、この3LDKのマンションだ。
父親はいない。
母親は、単身赴任で関西で仕事をしている。一か月に一回帰ってくる程度で殆ど一人暮らしのような状態ではある。
カップ麺で簡易的に昼食を済ませて、コーヒーを入れる。
夕食の準備を始める、17時まで最近買いためていた、漫画やラノベを集中して読む。
そう、実は俺にはオタク趣味がある。
グッズなどを買いあさるまではいかないが、注目しているアニメや書籍は見逃すことなく目を通している。
このフィクションの世界が、リアルで上手に生きることが出来ない俺の心を癒してくれているのかもしれない。
集中していると、17時にタイマーをセットしていたスマホが音を鳴らす。
タイマーを止めると、俺はキッチンへ向かい夕食の準備を始める。
最初に米を炊いておく。
新玉ねぎをみじん切りにして、少し過熱する。
ボールに入れた挽肉に調味料を少々加えたところで刻んだ玉ねぎも放り込みひたすら捏ねる。
フライパンを温めて、形になった五つの肉の塊を加熱する。
中まで十分に火が通れば、ケチャップ、ウスターソース、赤ワインを同量入れて煮込む。
早炊きでセットした米のブザーも良いタイミングでなった。
あとは、適当に(ちぎっただけの)レタスをお皿に乗せて完成だ。
「ただいまー。疲れたー」
ちょうど、待ち人も帰ってきたようだ。
「おかえり。2組もクラス会だったの?」
「うん。ファミレスでお昼食べて、ボウリング。マジで疲れた」
そう言いながら、彼女は持っていた鞄をリビングのソファーの上に放り投げる。
「1組もクラス会だったらしいじゃん。たまには参加したら?」
「まあ、気が向いたらな」
時刻を確認すると18時を過ぎたところだった。
「少し、早いけど晩御飯にしようか」
「やったー!。ハンバーグだ!腹減ったー」
「先に手洗ってきて。奈季」
「はーい」
学園のアイドルで王女と呼ばれている彼女は、俺の隣に住む幼馴染だ。
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