金髪美少女と仲良くなったら、幼馴染の様子がおかしくなった件。
孤独な蛇
第1話 王子と王女
(はあ……学校、気が重いなぁ)
そう溜息をつきながら登校する俺は、
全国でも学力、スポーツ共に優秀で有名な進学校、海星学園へ通う高校1年生だ。
俺は、いつも憂鬱の気持ちを抱えながら学校へ向かっている。
学校に近づくほど、その気持ちは大きくなっていく。
その理由はというと……
「あ、王子が登校してきてる!かっこいー!」
「ほんとだ!無口な王子様!今日も素敵」
俺は、極度の人見知りだ。
正直、学校に友達と呼べる人間は殆どいない……。
「あ!王子が一瞬こっちを見てた!」
「違うわよ!私のほうを見てたのよ!」
と、こんな感じで毎日学校に登校すると、このような周囲の反応があり俺の心は乱れる。
人見知りな俺に直接話しかけてこないでくれと願いながら、ビクビクして学校生活を送っている。
勿論、話しかけられれば無視するわけにもいかず素っ気ない態度で対応してしまう。
「あ、あの!」
学校に到着し、靴箱で靴を履き替えていると女子生徒に声を掛けられた。
本当はスルーして立ち去りたいが、ほとんどボッチの俺にわざわざ声を掛けてくれたのに逃げるわけにはいかない。
俺は、緊張しジト目でその女子生徒のほうを振り向いてしまった。
「なに?」
失敗した。
自分でも素っ気なく返事をしたのが分かった。
「あの……片桐君、いつも筆記試験1位だよね。私もテスト勉強頑張るから、これからも頑張ってください!」
「うん。ありがとう」
そう答えると、俺はそそくさとその場から立ち去った。
「王子に話しかけちゃったー!ありがとうって言われちゃったー!」
「きゃー!いいなー。私もアタックしてみようかなー!高身長だし、スタイルいいのに筋肉質な感じだよね!」
「無口な王子。かっこいよねー!」
俺が立ち去った場所で、女子生徒数名がそんな話をしているのが聞こえてくる。
他人と会話することに緊張し自発的に人と関わらない俺に付けられているあだ名。
無口な王子。
俺は、そう周囲から揶揄されている。
これ以上、誰かに絡まれることを望まない俺は急いで教室へと向かう。
教室へと続く廊下は窓が開けられていて、冷たい風が入ってくる。
その風が緊張して噴き出していた俺の汗を冷やしてくれる。
(もう、三月で春が近いのにまだまだ寒いなぁ。来月から2年生か……)
俺は、海星学園に入試1位の成績で合格した。
1学期に向かえた最初の中間テストの結果、上位15位までの生徒の順位表が廊下に張り出され、俺の名前は1位と書かれた隣にしっかりと印字されていた。
そのテスト結果を眺めているだけで、俺に視線が集まり注目されていることが分かる。
そこからテストの時でも体育の授業の時も、好成績を残しているのにも関わらず何も語らず表情変えず粛々と事を進める姿から、無口な王子というあだ名を付けられてしまったらしい。
とにかく目立ちたくない俺からすれば、由々しき事態である。
1年1組の教室に駆け込むと、話しかけないでくれオーラを放ちながら自分の席に座り、愛読している文学書を鞄から取り出して目を通す。
(……完璧だ。このスタンスなら誰も話しかけてこないはず。高校に入学してから一年近くかけて編み出した俺の防衛技術だ)
「王子様が難しそうな文学書よんでるわ!」
「私も、あの本読んで王子様の気を引こうかしら!」
「私、あの本読んだことある!ちょっと話しかけにいこうかな」
(しまった、悪手だったか……。今日は少し読みやすい文学書を持ってきたから知っている人が多いのか……)
教室でそんな風に話する女子生徒が近づいてくるのを察し、俺はトイレに逃げ込むために廊下へと駆け出した。
どうやら女子生徒たちは付いてきてはいないようだ。
しかし、ホッとしたのも束の間で前方から別の女子生徒の集団が近づいてきている。
「え?あれ、王子の片桐君じゃない?」
「ほんとだ!いつも教室にいらっしゃるから廊下でお見かけできるなんて!」
「ねえ。お声を掛けましょう!こんなチャンスあまりないんじゃない?」
10人近くいるその女子集団にどうやらロックオンされたようだ。
トイレは、その集団の向こう側。
どうやら、観念する時が来たのか……。
「いえ。こんな大人数で押しかけてお声掛けするのは、彼に迷惑が掛かるわ。今回は遠慮しましょう」
そう発言した女子生徒。
この集団の中で、ひと際存在感を放っている。
美しいロングヘアに整った小顔、長めの足からスラっとしたスタイル抜群のプロポーション。
俺は、彼女を知っている。
その後、俺は女子生徒集団の視線を感じながらも話しかけられることもなく彼女たちとすれ違う。
しかし、その集団とすれ違った際に俺の足元に何かが落下してきた。
(……薬用リップ?)
このままスルーすこともできたが、一息ついてから俺は薬用リップを拾い覚悟を決める。
「これ、落としたよ。北原さん」
俺のその言葉に、廊下にいる生徒全員の注目が俺に集まる。
そして、落ち着いた様子で彼女は俺の前まで歩み寄ってくる。
「拾ってくれて、ありがとう。片桐君」
俺の差し出した手から薬用リップを彼女は受け取った。
そして、お互いに何事もなかったように別の方向へそれぞれ歩き出す。
その様子を見ていた廊下にいる多くの生徒たちが、数秒の沈黙を破り黄色い歓声を上げた。
「きゃー!王子と王女が向かい合って言葉を交わしていたわ!」
「あの二人が話しているところ初めて見た。なんか空気が変わったよ!」
「やっぱりお似合いにお二人ですね!今まで接点がないのが不思議ですよね!」
各々が色んな意見を言い合う廊下から逃げるように俺はトイレに駆け込んだ。
幸いトイレには誰もおらず、ホっと一息つくことが出来た。
「王子と王女か……」
そう俺は、彼女を知っている。
俺が王子なら、彼女は王女。
1年2組。
学園のアイドル、王女と呼ばれる学年一の人気者だ。
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