結末
「ぁ…ぃあ………や…ぁ」
まるで廃人になったような私に優しい香菜は心配そうに顔を覗き込む。
「ゆ、雪ちゃん?これはね、雪ちゃんの為でもあるから」
もう香菜から発せられる言葉のすべてが体に痛みを与える。
「ひ、ぅ……ゆ、ゅるひ、て」
私は香菜なしでは生きれない。
でも、私が死んでから、香菜が誰かとくっつくのも嫌だ。
「雪ちゃん…」
「ど、どおしたら……どうしたら、好きになって……き、嫌いにならないでくれる?」
私は力を振り絞って香菜の服の裾を掴んで聞く。
「ど、奴隷にでも…なんでもなるから!か、香菜のそばにい、いさせて…」
縋るように泣き叫ぶ私を見て香菜は考え込んだ。
しばらく黙って考え込んだ末、香菜はようやく口を開いた。
「私…私はね、雪ちゃんと出来るならずっと友達でいたいよ。お互いに恋人が出来ても、ずっと変わらず親友でいたい」
私は思わずため息がでた。
なんて自分勝手な。
でもそれはさっきの私だってそう。私たちは自分勝手だ。それはそれで香菜と似てる部分があるみたいで良いなぁ、なんてぼんやりと考える。
「……うん。それで、いい。それでいいから、そばに…いて、私のそばに」
力の入りづらい手で香菜を抱きしめようとしながら、神に祈る気持ちで小さく言葉を返した。
「うん。雪ちゃんは友達。親友。それ以下でもそれ以上でもないの」
私の頭を撫でながら香菜は私を励ましているのか少し抱きしめ返してくれた。
「香菜…好きだよ………ごめんね」
「うん、私もごめん。私も雪ちゃんのこと、好きだよ。友達として」
私は正式に失恋した。
最低な方法で気持ちを伝えて、最悪な形でフラれて、最悪な形に収まった。
しばらくして、日が沈みかけ、空も赤くなりはじめた時。香菜は私を離して曖昧に微笑んで帰っていった。
この部屋には私一人だけ。
『友達でいる』?『ずっと変わらず親友で』?
聞こえは良くてもその選択が一番辛くて、死よりも苦しいことなんだよ。香菜。
私はまだ香菜に心の底から嫌われていないのかもしれない。でも、もう前みたいに好かれてもいない。
『前のように香菜の親友でいよう』
そんな選択肢、選びたくたって私が作った深い溝のせいで選べない。
香菜を振り向かせようともがいたって、ただただ香菜を苦しめ、その道中で何度も心を壊してしまうだろう。
「親友で、なんて……」
私は夏にしては冷え切ったこの部屋の勉強机に向かって机の前に立った。
私は傍にあった引き出しから銀色に輝く刃を持つカッターナイフを取り出し、カチカチと刃を伸ばす。
「きっと…香菜の親友なんて…」
机の上に乱雑に放置していたスタンドミラーを目の前に設置して、哀れにも真っ青になった生気の無い自分自身の顔を見つめる。
もう焦点も合わない。でも、カッターナイフを持つ手は震えることなく、しっかりと握り込んでいた。
「きっと、できないよ……だから」
私は腕を持ち上げてカッターナイフを首元に押し当てる。
グッと刃物を押し当てられた首がピクピクと震えているのがわかる。こんなときでも生存本能が働いているのかドクドクと心臓が波打つ。
「ごめんね…香菜、愛してる」
私は思い切りカッターナイフを引いて、首を切った。
痛みはもう感じていない。
やがて立っていられなくなって、なんとか力を振り絞ってベッドの上に座る。
さっきまで香菜が座っていたからか、暖かくて胸が高鳴り、少し胸に痛みを感じる。
ふと、これじゃあ死ねないのではないかと思い、手に持ったままのカッターナイフでもう一度、二度、三度と首を切った。
今度は少しだけ痛みを感じた。
これは、私への罰であり、救い。
意識が朦朧としはじめて、視線を下げると視界の端に青い物が視界に入った。
ボロボロの首をゆっくりと動かしてそちらを見るとそこには香菜が置き忘れたのか、香菜のスマホが残っていた。
「……」
香菜のスマホを手に取り、スマホの電源をいれる。
ロック画面にはいつかに撮った私とのツーショット。
このときはちゃんと親友でいれたのになぁ……。
「はは……あ、はは…」
良かった…良かった!私の死体の第1発見者は香菜だ!香菜はきっとスマホを取りに戻ってくる!死体になった私を最初に見るのは他でもない、最愛の相手の香菜!やった!きっと、香菜は優しいから私を何度も思い出して司なんかと恋愛できないはず!私は香菜の心の中で生き延びられるんだ!これで!これで!
これで、香菜とずっと親友のままで生きれるんだ!
香菜!愛してる!世界で誰よりも!世界で1番香菜を愛してる!
「好きな人がいるの」と笑う君の瞳に恋をした。 ゆー。 @yu-maru
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