第4話

「こんにちは。君たちが『火炎の剣』かな?」

「あ、ハイ! そうです!」



 俺の問いかけに、剣を腰にさした少年が元気よく答える。

 傍に控えていた少女が、訝しがって俺に問う。



「あんた、誰?」

「ああ申し遅れました。私はB級冒険者のアルマ。冒険者協会から君たちの指導を頼まれています」



 よろしく、と頭を下げる。

 剣を腰にさした少年は俺に続いて頭を下げたが、残りの三人__

 魔法使い風の少女、ファンキーな格好の少女、糸目の少年は静かに俺を観察している。

 値踏みをするような目線で見られているのは多分、勘違いではないだろう。

 挨拶もせず人の事をジロジロ見やがって、礼儀というものをしらんのかと心のなかで思いつつも、そんな考えはおくびにも出さず名前を尋ねる。

 これから仲良くやっていかなくちゃならないんだから、邪険な雰囲気は出すまい。








 受付のオッサンから頼まれた仕事は、新人冒険者の指導、だった。

 危なっかしい新人らが右も左もわからず右往左往しているから、冒険者の基本を1から教えてやれ、とのこと。

 それこそ右手左手の見分け方から、じっくりと。

 なぜ冒険者協会がわざわざ新人を気にかけているのか不思議に思って聞いてみると、



「俺の娘がそのパーティにいんのよ。危なっかしくて見てられなくてなぁ……」



 だそうだ。

 オッサンは昔、受付に座る前は冒険者をやっていたらしく、それに憧れた娘さんも冒険者になりたいと言い出した。

 だが父親として娘には安全に育って欲しいと思ったオッサンはその願いを断固拒否。

 拒否られた娘さんは反抗して家出、今はパーティメンバーの皆さんと一緒に暮らしてるんだとか。

 そのパーティというのが「火炎の剣」

 新人ばかりの駆け出しパーティらしく、まだまともな活動実績もクソもない。

 そんなパーティに娘を預けるとなると、オッサンは不安で夜も眠れなかったらしい。

 ストレスでますます禿げ上がるんじゃないか、あのオッサン。


 事情は分かったが、しかしそれはオッサンの私情であって冒険者協会から直々の依頼として扱うのは職権乱用では? と聞けば、



「職権っていうのは然るべき場所で乱用するためにあるんだよ」



 とのこと。

 それでいいのか、冒険者協会受付。

 しかし実際に冒険者協会には「新米冒険者応援サービス」が存在し、申請さえすれば高ランクの冒険者が手取り足取り冒険稼業の方法を教えてくれるようになっている。

 が、俺が冒険者になって十年ほど経つが、このサービスを使っている新米冒険者は見たことがない。

 冒険者協会も表立ってこのサービスを宣伝したりはしないし、長く活動している冒険者でもこの制度を知らないものは多い。

 冒険者になったばかりの新米は尚更、そんなサービスを知る機会すら無いだろう。

 俺が受け持つことになった「火炎の剣」も、新米冒険者応援サービスなんぞ知る由もないが、今回は「火炎の剣」からの依頼ではなく受付のオッサンからの依頼である。

 冒険者になるならせめて冒険のいろはを教わってからにしてくれ、このサービスを使ってくれ、と娘に頭を下げて頼んだらしい。


 ちなみに、指導役の高ランク冒険者は勿論授業料を貰うことになっているのだが、その報酬は新米共が三割負担、残りは冒険者協会が受け持ってくれる親切設計である。

 お陰で普通に他の依頼をこなすよりも稼げそうである。

 嬉しいな。







「アルマ、って、あの、『寄生虫』?」



 ファンキーな格好の少女が嫌悪感を隠そうともせず、俺に対してより一層不信感を顕にしてみせた。

 寄生虫。

 実力も追いついていないのに「雷霆の剣」に1年ものあいだ居座り、賃金を掠め取り続けてきた、そんな卑しい俺につけられた通り名である。

 なかなか体を表す名じゃないか。

 否定はするまい。

 俺は寄生虫だ。

 実際、美味しいとこだけ持っていけるような立ち回りを徹底してきたし、それを多少申し訳なく感じていてもやめようとは思わなかった。

 本物の寄生虫と違うところと言えば、雷霆の剣宿主の存続のためにできる限りの努力はしていたことくらいか。


 寄生虫、という通り名はどうしようもなく事実だ。

 が、それを年下の礼儀の成っていないガキに、しかもFランク駆け出し冒険者に言われるのは、流石に腹が立つ。



「……うん! そう! よく知ってたね。私って意外と有名人ですねぇ」



 腹は立っても口は立てない。

 後輩達に好かれようが好かれまいが、どうせ仕事だし、金さえ貰えれば何でもいい。

 丁寧な口調も崩さない。



「こら、フィアナ。そんな失礼な言い方は……」

「ディロはこいつの噂を聞いたことある? あるわね?」

「……ある、けど」



 ファンキーな彼女が、こいつ、と言って俺を指差す。

 人の事を指で指しちゃいけないって習わなかったのか。

 マジで失礼なガキだな。



「『雷霆の剣』はイアリスの街で有数のA級パーティ。そのパーティの中で、全く仕事をしないアーチャー……戦闘中も矢を射らないらしいし、アーチャーと言っていいのかも定かじゃない……ランクだって他のメンバーより低く、いつも足手まといで、そのくせに悪びれもせず『雷霆の剣』に居続けていた、クズみたいなやつよ」



 めっちゃいうやん。



「でも先日、ようやく『雷霆の剣』から追放されたらしいわね! せいせいするわ!」

「そ、そうなんだ……」



 ディロ、と呼ばれていた、剣を持った比較的礼儀正しい少年が困ったように、しかしファンキー少女の言を否定もせず、ただ頷いた。

 咎めろよ、少年。

 彼ら「火炎の剣」の残りの二人、糸目過ぎて何も見えてなさそうな少年と、魔法使いっぽいローブを纏ってデカい杖を携えている少女も、ファンキー少女を止めることもない。

 どころか、この二人は俺の登場から一言も喋っていない。

 糸目の少年は俺の方を向いて、何やら考えているようである。

 ……見えてんのか? あれ。

 目、つむってない?

 魔法使い風の少女に至ってはそもそもこちらへの興味もないのか、もっちゃもっちゃと料理を口に運んでいる。

 ほっぺを膨らませて料理を頬張るその姿はまるでハムスターのようで可愛い。


 俺達が顔を合わせているのは、冒険者協会の建物に併設されている酒場である。

 そして、数週間前に俺がバルトからクビを宣告された酒場でもある。

 酒場のくせに酒の取り揃えは悪いが、料理は美味い。

 どの料理も値段はそこまで高くないのにしっかり量があって冒険者のお財布に優しいのだ。

 とってもリーズナブル。

 目の前のハムスターな魔法使いの少女も牛肉のステーキを嗜んでいる。

 美味いよな、それ。

 俺も好きだよ。



「こんな奴が指導役なんて、冒険者協会は何を考えているのかしら。こいつに上から指図されるくらいなら、私達だけで冒険したほうがいいわ」



 ファンキー少女、もといクソガキは言いたい放題である。

 流石にムッとするが、我慢我慢。

 ここで怒って、新米冒険者応援サービスを投げ出してしまえば、金が貰えない。

 ばかりか、冒険者協会から俺への信用もなくなってしまう。

 なんせ冒険者協会様直々のご依頼だ。

 実際は受付のオッサンの私情によるところが大きいけれど。

 反故にはできまい。

 いや、指導がまだ始まってもいない、顔合わせの時点である今なら契約を取りやめても、クーリングオフの範疇か……?



「……上から指図だなんて、そんなことはしませんよ。とりあえず、皆の名前を伺いたいですね。自己紹介してもらってもいいですか?」



 唇の端が引きつっているのを自覚しつつ、極力穏やかな声で尋ねる。



「あ、はい! 僕は『火炎の剣』のリーダー、ディロです。剣を使います。剣士です」



 比較的礼儀正しい少年、あらためディロくんが応える。

 なるほど、彼がリーダーか。

 クソガキ少女と違って、俺が寄生虫であるという話を聞いても、一応新米冒険者応援サービスの指導役として話を進めようとしているだけ好感が持てる。



「じゃあ、次、フィアナ」

「いやよ。なんでこんなやつに挨拶しなきゃいけないのよ」



 クソガキ。

 俺のこと嫌いすぎるだろ。



「……じゃあ、ルル。自己紹介して」



 ディロくんも諦めて、食事に夢中の魔法使いに声を掛ける。



「ん。私はルル。魔法使い。どの系統の魔法も基本的なものは大方抑えてる。好きなものは牛肉のステーキ」

「ああ、そのステーキ美味しいですよねぇ」



 ハムスター少女は言うことも可愛らしかった。

 コロコロと表情が変わるクソガキと違って表情筋はあまり動かない。

 無表情系小動物風少女ね、オッケー。

 ってか基本的な魔法を大体抑えてるって凄いな。



「ソイ、と申します。好きなものは豆腐の揚げ物ですかね。この酒場で出されるものが好きです」



 糸目の少年が続いて言う。

 こ、好みが渋いな。

 豆腐の揚げ物ね……俺も好きだけど、高野豆腐のほうが好きだな。

 糸目の彼は一応腰に剣を差しているが、魔物との戦いには向かない短剣だった。

 剣士ではないようだけど、魔法使いのローブも着ていないし、僧侶? それか斥候やらダンジョンの鍵開けやらを担当するシーフだろうか?



「………」

「フィアナ……ちゃんとアルマさんに挨拶をして。これからお世話になるんだから」

「嫌よ。絶対に嫌。寄生虫に頭を垂れるなんて耐えられないわ」



 なんて強情なクソガキなんだ。

 あと寄生虫呼ばわりやめろ、傷つく。

 言いたいことは色々、というか主にクソガキに苦言を呈したい気分だったが……仕事、これは仕事、と念じて笑顔を浮かべる。



「じゃあ、皆さん食事が終わったら、簡単な依頼をやってみましょうか。私も付き添って手取り足取り教えますから」



 はじめは簡単な薬草採取などがいいだろうか。

 探せばどこにでも生えてるし、頑張ればそれだけで食費を賄うくらいにはなる。

 それともイアリスの街の中で清掃依頼からやるか。森の中よりも安全だし。

 そのへんは火炎の剣の皆さんと話して決めるか。

 など色々と考えていると、俺の発言にクソガキが突っかかった。



「嫌よ。誰がお前なんかと一緒に歩きたいと思うの。指導役、チェンジで」



 ………………。

 すぅっ、ふー。

 ……チェンジで、じゃないんだよキャバクラかここは。



「フィアナ! 失礼だろ! ご、ごめんなさい、アルマさん。よく言って聞かせるので……」

「ディロ、こいつに謝る必要なんてないわ! そもそも実力不足なこんなやつに私の指導役が務まるとは思えないわ。年齢だってさほど変わらないように見えるし……運良く『雷霆の剣』に取り入っただけでデカい顔をされる道理はないわ!」



 でかい顔などした覚えはない。

 「雷霆の剣」に取り入ったのは事実だが、彼らについていけなくてクビにされたのも事実だが、歳をさほど重ねていない若造であることは事実だが。

 それでも、クソガキにここまで罵倒される道理はあるまい。

 しかもクソガキは駆け出しF級冒険者である。

 紛いなりにもB級冒険者の俺と、経験もクソもあったもんじゃないこのクソガキだったら、比較するまでもなく俺のほうが敬われる立場だろうが。

 何が悲しゅうて年下のガキの下に見られなくちゃならんのだ。

 俺にだってなけなしのプライドというものはあるのだ。


 クソガキ。

 再三そう思う。

 こいつ、多分、俺の噂を必要以上に真に受けて必要以上に俺に対して嫌悪感を抱いている。

 そのせいで俺の言うことに耳もかせないのだろう。貸したくない、の方が合っているか?

 俺のことを、下に見ている。

 自分よりも弱いとさえ思っているかもしれない。

 ……そんなに悪い噂が広まっているのか?

 F級冒険者の耳に入ってしまうほど?

 確かに一流のパーティ「雷霆の剣」から追放された、なんて話題性としては十分にある。

 人の噂も七十五日とはよく言うが、

 風評被害は、信用商売な一面もある冒険者にとっては痛手である。

 ううむ。





 俺がフィアナという名前のクソガキの不敬な態度に、一周回って怒りもなくなり、俺の世間の評価に対して若干の不安がよぎったところで。

 それまでずっとお食事に夢中だったハム系魔法使いことルルちゃんがお行儀よく「ごちそうさま」を唱えて立ち上がった。



「それじゃ、依頼。何をする? 討伐、採取、それとも雑用?」



 フィアナ同様敬語ではないものの、指導役に対して敬意の感じられる態度であった。

 クソガキとは大違いである。















 結局その日は森に入って、難易度の低い薬草の採取依頼をしてみることにした。

 聞けば、どうやら彼ら、火炎の剣はマジモンのルーキーで結成から数日しか経っておらず、メンバーの誰も、なんの依頼も成功させたことがないらしい。

 年齢層も見た感じ、中学生とかそのあたりのようだし、おとぎ話の優雅な冒険譚に憧れて冒険者を志した若造の集まりといった印象を受けた。



「冒険者なんて、望んで成るもんじゃないと思うけどなぁ」

「なんでですか?」



 純朴な様子でそう訪ねてくるのはディロくん。

 森に入ってからずっと、「先輩から色々教えてくれるなんて!」と喜んで俺の隣に控えて話しかけてくれる。

 素直な子は好きだよ。

 数歩下がって後ろでは魔法使いのルルちゃんと糸目のソイくんが俺とディロくんとの会話に小耳を挟みながら歩いている。

 ちなみに、クソガキことフィアナは、俺から十数メートル離れたところで単独で薬草を探している。

 集まって行動しないと危ないよ、と諭したものの彼女が俺の言うことを聞くはずもなく、しかし森の中で完全に1人で行動する勇気はないのか、こうして微妙な距離を保ちながら並走している。



「じゃあ聞くけど、ディロくん、君は何で冒険者になったんですか?」

「僕は、その、勇者様に憧れて」

「ああ、あの絵本の?」

「はい」



 昔、と言っても数十年ほど前の話だが、この世界には魔王と勇者がいた。

 往々にして勇者というのは人間の希望の光で、魔王というのは悪の象徴であるが、この世界もその例に漏れず、魔王率いる魔族と人間とが長年戦争を続けており、ある少年は偉大な力を見込まれて魔王討伐の旅へと赴くことになった。

 その少年兵こそが、後にその名を広め、おとぎ話として語り継がれる勇者その人であった。

 そんな彼も、勇者になる前は一介の冒険者であり、魔王討伐の旅路の傍らにも冒険者としての活動を続けていたらしい。

 彼が勇者と言われる所以。

 それは彼の圧倒的善性によるもので、道すがら悪さをする魔物を懲らしめるのは当たり前、困っている人がいたらそれが王侯貴族でも1人の農民でもあまねく手を差し伸べ、人間と魔族との悲しい争いを厭い、自らのためにではなく仲間のために血涙を流す……そんな絵に描いたようないい人だった。

 挙げ句、魔王を討ち果たし戦争を終結に導いたもんだから、人間側からしたら祭り上げたくなるってものだろう。


 もっとも。

 それは彼が人間側からしたら文字通りの勇者であるってだけで、魔族側からしたら自分たちの王様がぽっと出の少年兵に暗殺されてしまうという悲劇に過ぎないのだが。

 勝った方がいい目を見る、それが戦争だ。

 そして人間側はその戦争に勝利した。

 魔王は悪者として扱われ、魔族軍は人間の軍門に下り、戦争に参加しなかった魔族も奴隷にされたり人間軍による略奪を受けたりと散々な目にあってしまう。

 魔族からしたらなんて悲劇だ。



「僕の親父は勇者様に救われたことがあるんです。僕が生まれるずっと前ですけど、かなり危ないところを助けてくださったみたいで。勇者様がいなかったら僕は生まれてません。親父からは勇者様の話をよくされました。この世界が平和になって、勇者様の活躍が絵本になったらその絵本を百冊単位で買っちゃうくらい、親父は勇者様に感謝しているんです」

「百冊は凄いですね」

「お陰で家の本棚は一色に埋まってますよ……勇者様の活躍は、魔王が死んだあとに生まれた僕でもよく知っています。僕も彼のように、人を助けられるようになりたいな、って思って、それで冒険者になりました」



 ディロくんの動機は、勇者への憧憬、ということらしい。

 なるほど確かに冒険者になれば街の人々のニーズに合わせた仕事ができるだろう。

 素材がほしい職人に様々な素材を。

 ポーション造りに精を出す薬師に薬草を。

 人手が足りない家のために掃除の手伝いをする、なんてこともできる。まさに俺がやっていたことだ。

 イアリスの街周辺の魔物を狩っているだけでも治安維持に一役買うことになるだろう。



「なるほど。勇者に憧れて……良いですね。目指すべき姿が決まっているというのは、冒険者としてやっていくうえで結構なモチベーションになりますよ」



 だが、彼の願いを叶える方法は、必ずしも冒険者になること、だけではないだろう。

 そもそもが、街の中で1人の大人として働くだけで誰かの役に立っているのだ。

 木工職人になって家具を求める人に上質な家具を。

 薬師になって怪我人にポーションを。

 市民を守りたいのであれば衛兵になって街を見張るのだっていいだろう。

 そんな人々が今日も己の職務をまっとうからこそ、社会が回り、街が街としていられる。

 冒険者にならなくとも彼は、自分の描く勇者像を追い求めることはできる。

 むしろ、冒険者になることは、俺個人としてはオススメできない。

 この世界では成人が十五歳。

 彼らももう一年二年もしたら立派な大人として扱われる年だが、前世の日本だったらまだ保護者のもとで教育を受けている年齢だ。

 そんな子どもを命の危険もある場所に送るのは気が引ける。

 それに収入も安定しているとは言い難いし……もう少し世間を見てから、冒険者になるか、他の職場につくかを判断しても良いのではないか。

 なんてことを思った。



「えへ、ありがとうございます。同世代の人にこの話をして小馬鹿にされなかったの、初めてです」



 絵本のことかよ、ってよく笑われちゃって。

 そういって無邪気に笑う彼の夢を潰すのも忍びなく、俺は彼の言葉を肯定するに留めておいた。

 いずれにせよ数週間も冒険者やってれば現実が見えてくるだろう。

 彼の目指す道がどれほど危険で、難しいかが。

 ……それまでは、後輩の背中を押してやるのもいいだろう。



「じゃあ、他の皆にも聞いておこうかな……って、何やってんの!?」

「もぐもぐ」



 ディロくんの話を一通り聞き終えて、他のメンバーの動機も気になってきたな、と思って後ろを見てみると。

 小動物系魔法使いことルルちゃんが道草を食っていた。

 いや寄り道したとかそんなんじゃなくて、文字通り。

 よく分からん雑草を食っていた。



「もぐもぐ」

「ペッしなさい、ぺっ! ソイくんは止めなかったのか? 一体何をやって……ソイくん!? 一体何をやってるの!?」

「アルマさん、薬草、見つけましたよ」

「こんな薬草があってたまるか! ガッツリ食われるじゃん!」



 ソイくんはソイくんで、食人植物に食われてた。

 ハエトリグサを縦横二メートルに引き伸ばしたような形状の植物だ。

 二枚の葉っぱで獲物を挟む力は強く、そう簡単には抜け出せない。

 挟まれたら最後、ゆっくりと分泌される消化液に体を溶かされるしかない、なかなかホラーな植物だ。



「ディロくんはソイくんを助けてあげて! 私は、ルルちゃんの口から異物を取り出すから!」

「分かりました!」

「根本を切り落として、それから咬合部分を開いて! そばにもう何匹かいるから、くれぐれも捕まらないように……ディロくーん!!」

「うわああああ!!」



 忠告虚しくハエトリグサに噛みつかれてしまったディロくん!

 頭が挟まれて息苦しそうなソイくん!

 なかなか口内の異物を吐き出さないルルちゃん!

 事態に気づいていないフィアナ!





 火炎の剣の指導は、思ったよりも前途多難だった。

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