①-11 君へ恩を返すには②

 マリアは家事のほとんどが酷い有様だった。かつての拠点では、ほとんどレイスがやっていたのだ。今は気付けばティニアがすでにやり終えてしまっている。ティニアはやり方を知らないだけだと言い、料理や洗濯などの手ほどきをした。ある程度をこなせる様になったものの、やはり酷い。


 買い置きの食料から夕食の心配をしているとき、玄関のドアがノックされた。


「ただいま~」

「ティニア! どうしたの、何かあったの? 遅くなるって言ってたのに、いつもより早いじゃない」


 ティニアは特に何かあったという感じはなく、ごくごく普通に帰宅してきただけに、驚きが隠せない。


「うん、ちょっと予定が変更になってね。何かはあったけど、いい動きというかなんというか」

「いい動き?」

「診療所の先生が代わったのは聞いた?」


 ティニアはコップで水を汲むと、手に持っていた花を生けた。子供たちに貰った花のようだ。


「ええ、今日診療所の前で人混みに遭遇して。花束も結構売れてたから、感謝の花束だったのかなって」

「なるほどね。交代は急に決まったんだって、それも昨日。ずっと故郷で一人残してきた母親の心配されてたからね。それで、まだ30歳くらいの若い先生が着任したんだよ」

「そうだったの? ティニアの歳と変わらないのね。今日でもう診察は終わりみたいな感じだったし、随分と急なのね」


 ティニアは唸りながら、パンをカットすると、買ってきた野菜を洗い、器用に乗せていく。


「うーん。お母様の容態があまりよくないんだって。それで、急いで後任を探してたんだよ」

「そうだったのね……。確かに、いい動きかもしれないわね」

「いい動きは、その先生が結構いい先生みたいでね~」

「えっ」


 マリアは驚いてティニアの顔を見てしまった。ティニアはぽかんとしながら、カットしたトマトを乗せてパンでサンドした。


「珍しい! ティニアが男性を褒めるなんて」

「待って、ボクまだ先生が男だとは言ってないんだけど」

「医師なんて男ばっかりじゃない。どうしたの? 珍しいじゃない、そんなカッコイイ人だったの?」

「ええっ」


 ティニアは更に口をあんぐり開けてしまった。そしてすぐにハッとして笑ってしまった。

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