①-12 君へ恩を返すには③


「そうかそうか、マリアはカッコイイ人好きだもんね」

「当然でしょ、どうせならカッコイイ人を見ていたいわ」

「ふふふ、それはちょっとわからないけど。とにかくいい先生みたいだよ。孤児たちの健康診断もほとんど無償でやってくれるって」

「え! 凄いじゃない、でもちゃんとした医療なの?」


 マリアに医療の事は分からない。わからないからこそ、不安なのである。ティニアは会話をしながら、今度はスープをこしらえる為に具材をカットすると、鍋へ放り込んでいく。


「ちゃんとした医療って、そりゃそうだよ。話を付けたのはアドニスなんだけどね。表立っていう話ではないけど、先生も孤児だったんだってさ」

「孤児から医師になったってこと?」

「うん、保護してくれた家が医師の家系だったそうだよ。恩返しがしたいんだってさ。前任の先生と彼を保護した医師は知り合いだったんだって」

「それはもうすでにカッコイイじゃない」


 マリアはウットリとし、腕を組むと頷いた。


「ははは、好きだね~。そういう話」

「きっと背が高くて、優しそうで、穏かそうで、微笑みが絶えない人よ」

「そこまで想像出来ちゃうんだ。でもボクはまだ会ったわけじゃないからなあ」

「花でも届けにいけば会えたかしら! ああ、あの人混みにもう少しいれば……」


 うっとりするマリアに対し、ティニアは無邪気に笑って見せる。雑談の間にティニアが軽く調理を済ませ、テーブルに並べている。


「待って、待って! どうしてこんな簡単に夕飯を作ってしまうの! 今日は私が……」

「ええ? ああ、ごめん。ボクは物理法則を越えちゃうからね」

「それって物理法則関係あるの?」

「そ、それでさっそく明日の朝一から健康診断になったんだよ。で、ボクが早く帰ってこれたの。だから夕飯は作るし、作ったよ」


 ティニアは適当に誤魔化しつつ、注ぎたての熱々スープを両手に、無邪気に微笑んだ。


「もう! ティニアは本当に、そういう所……頭が上がらないわ」

「ふふふ。とりあえず食べちゃおうよ。空腹は物理法則を越えられないよ!」




 🔷



 食事を終えたところで、ティニアが当たり前のように後片付けを始めた為、マリアはティニアを全力で阻止すると、早く寝るように部屋へ見送った。このままでは、朝食まで作って出勤してしまうだろう。


「朝食は私が作るから、作るくらいなら起こして頂戴!」


 閉まった扉の向こうから、ティニアの笑い声が聞こえてきた。



 たとえ彼女が敵であったとしても、彼女が幸せであればそれでいいとも思える。

 そして、彼女と似て異なる存在であるレイス。

 恩人であるレイスと再会するまで、掴み取ることも出来ない謎と共に、マリアは歩き続けなければならない。

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