⓪-11 追憶は白銀へ染め③

 ラーレの目の前、少年の背後では、狼狽した隻眼の男と口元を抑えているレイスの姿が見える。


 少年はラーレを優しく抱きしめると、そのままズルズルと力無く崩れ落ち、地面に倒れ込んだ。

 咄嗟に少年を掴もうとしたものの、ラーレは脇腹の激痛に気付き、顔を歪ませた。


 少年は地べたへ倒れる寸でで隻眼の男に抱き留められたが、ラーレは床へ崩れ落ちた。ラーレの手も足も頭も、もう正常に動かない。


「ラーレ!」


 レイスが駆け寄り、ラーレを抱き起した。レイスの長く綺麗な金髪が、白い装束が、少年とラーレのの鮮血で染まっていく。

 隻眼の男は少年を抱きかかえたまま、レイスのように狼狽していた。少年の肌はさらに青白く変貌し、呼吸も浅い。

 少年は、隻眼男に何かを耳打ちしたようだが、声は聞こえない。


「……複数人が、先ほどの銃撃音を聞き、この場に向かっているそうです」


 ひどく憔悴した、男の言葉だった。少年の伝言だったのであろう。力のない、無気力な声色だ。


「レイス、あなただけでも、逃げて、お願い」

「逃げるのはラーレです、私ではありません」

「もう無理、たちあがるのだって」


 レイスは首を左右へ振ると、滅多に流さない涙を流した。所長が亡くなった知らせを聞いたとき以来だ。


「……すべて私の責任です。この二人は、確かに敵であり、協力することも出来ない。味方ではないけれど、でも……」

「…………ラーレ、無理に僕らを信じようとしなくていい」


 少年は声を絞りだしたが、胸からは大量の出血が見える。いつ、そんな負傷を受けたのかはわからない。ラーレの数倍は血だまりが出来ており、唇の色が紫へと変色している。


「ラーレは、敵を、敵だと思って、敵を警戒して、当たり前のように、敵から逃げたらいい」

「お願いします。もう、喋らないで下さい、お願いします。俺がなんとかしますから」


 隻眼の男が少年の言葉を遮り、少年の胸を抑えた。そんなことをして、流血が収まるはずもない。


「奴らの狙い、ラーレだから……」

「え……」

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