⓪-4 追憶の朱は何を見て④

 扱う者、拳銃、その使用弾の性能ですら、レイスの方が遥かに上回っている。俊敏さ、戦闘技術。どれをとっても、ここから逃げ切れるのは自身ではない。


 負傷していたとしても、レイスだけだろう。


「逃げるだけなら二発で十分だわ。でも、私は逃げたりしない。レイスはここで戦い続けるのでしょう」

「…………」

「どうせ足手まといだもの。それなら、私が残――」


 レイスの気配が変わった。彼女の鋭い殺意と緊張感が、自身の感覚を冴え渡らせる。


 二人いる。一人の殺気はほとんど感じられず、かなり無防備に見える。余程の腕があるのだろう。もう一方の殺意に至っては対照的で、隠す気が無いのであろう事がわかるほど、剥き出しの殺意だ。


 拳銃の交換は済んではいない。ラーレは二発。レイスと共に一人ずつ、一発で仕留められれば問題無いだろう。だが、これだけの静寂の世界において、発砲音が響き渡ることは、襲撃者がここへ押し寄せることを意味する。


「後ろの扉から出て東へ、通路を抜けなさい」

「本気で言ってるの?」

「二発で逃げ切れるというのであれば、逃げ切りなさい。不慣れな銃の四発より、愛銃二発のほうが価値は高いかもしれません」


 レイスはそう言いながら、片腕を庇っていた手を離した。片手で拳銃を構えると死地へ向かうかのような微笑みを露わにした。


「レイスが逃げるなら、私も逃げるわ。置いていくなんて出来ない」

「無駄にしんがりを引き受けるという意味ではありませんよ。私は大丈夫です。信じて下さい」


 普段のように優しく穏やかな口調が、余計に不安を煽る。それでも、彼女の勘が外れたことはほとんどなかった。この奇襲でさえ、最も早く気付いたのは彼女だった。たまたま彼女の部屋に寄ろうとしていたときに奇襲が起こったのだ。


 あの時の5分で、すでに自身も肉塊になっていたであろう。其程までに、拠点の制圧が早かったのだ。


「お願い、落ち合う場所を指定して」

「北、海岸、公園、銀の塔」

「わかった。来なかったら許さないから」

「了解です、行きなさい」


 レイスは来ない。約束の場所など、どこにも存在しないのだ。

 ラーレは振り向かずに奥の扉をしめると、そのまま東へ通路を抜けていく。



(――嘘つき。絶対に許さない)


(――――奴らを!)

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