⓪-2 追憶の朱は何を見て②
「敵は幸い、一人だったようですね」
「レイス、腕……、肩は大丈夫なの?」
「問題ありません。動かすことが出来ますので」
「そういう事じゃないわ。私は貴女を心配して……」
「屈んで!」
レイスは既に別の狙撃手を打ち抜いていた。負傷しようが片手で、利き手でなくとも敵を圧倒できる技術を持っている。そんな不意打ちに強い彼女を負傷させたのは、ラーレの油断からだ。
「行きましょう。ここはもうダメです」
「皆は……」
「静かすぎます。皆もう、生きていないのでしょう」
「そんな」
レイスは先ほどと同じ口調で即答した。
最初こそ左肩を庇い、右手で肩を掴んではいたが、今は両手で銃を握っている。レイスの左肩が無事ではないことは、その出血量から理解できる。
それでも心配しているという意味で伝えたかったのだが、姉にとっては戦力になるかどうかの質問だったと判断されたのだろう。そういう人なのだ。
「退避の通路を使いましょう。ここから出なければ」
その美しい金髪が風になびき、光に輝く度に自身の髪色も金色であればと、ラーレは何度も思っていた。彼女に髪を伸ばすよう頼んだところ、その時はしばらく伸ばしてくれた。それが少し前になり、予告もなく短く切ってしまったのだ。
余計なことを考えていたラーレは首を振り、その雑念を振りほどいた。
(――ダメ。集中しなきゃ)
最後の角を曲がり、壁から隠し部屋へと入る。
「さすがに、誰もいないわよね」
「わかりません、拳銃は直ぐに撃てるように、構えたままで行きましょう」
レイスの髪は鮮血で染まっていた。
ラーレはレイスに褒められた時からずっと伸ばし続けている。少しでも彼女に近づこうと、髪には細心の注意をはらった。なんとか長く綺麗なまま、ついに腰まで到達したが、レイスは特に何も言ってくれなかった。
「他所事を考えている余裕はない筈です。現実逃避は辞めなさい。集中して」
レイスの言葉に、ラーレは拳銃を構え直した。
拠点の銃撃戦は長時間に及ばず、すでに周辺の音も、生存者の鼓動も聞こえないほどの静寂を見せている。入念に計画された奇襲だったと見て取れる。
動ける者はラーレと、負傷したレイスだけであろう。
「まだ油断しないでください。いいですね」
「……わかったわ」
二人は、まだ鮮血で汚れていない、隠し通路を進んでいった。
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