⑨-4 カンパネラは鳴り響く②

「え?」


 ティトーのキョトンとした表情を、一行は見つめていた。首を傾げたティトーは、その状態で再び声を上げた。


「え??」


 沈黙が平屋を支配した後、レオポルトがティトーへ声をかける。


「ティトー、お前……。女だったのか? なんでマリアは知って……」

「いやむしろ何で知らないのよ……」


 マリアの言葉に、呆然とする兄レオポルトは氷の形相になると、口を半開きにしたアルブレヒトを睨みつけた。

 絶対零度の視線だ。


「おい、アル……」

「いや、お前。え?」

「僕、男の子じゃないんですか?」

「え? お前、女…………。え?」

「お前! アル、ずっと一緒にいたのではなかったのか⁉」


 レオポルトの氷の眼差しが目に入らないアルブレヒトは、驚いた表情でティトーを見つめた。ティトーも意味が分からないのか、挙動不審だ。


「と、とにかく! 巫女に選定されなければ、ルゼリア王家での紛争が考えられます。なんとかそれを阻止して欲しいのよ……」

「いやマリア! なんで言わないんだ!」

「だ、だって。兄が知らないなんておかしいじゃない。男の子ってことにしてるだけだと思ってたから……。まさか、二人とも知らないだなんて思わないわよ。お風呂とかどうしていたの」


 意図せず赤面させるレオポルトはティトーの視線に気付くと直ぐに目を逸らした。


「お風呂、僕一人で入れるよ? お屋敷ではずっと一人で……」

「…………」

「おい、アル……」

「俺も知らんかったわ……」


 衝撃で素が出るアルブレヒトは呆けており、レオポルトは大きなため息をついた。そして改めて司教へ向かうと、深々と頭を下げた。


「申し訳ない、司教。その、ルゼリアでは女子の王族の方が継承権が上になる。であれば、ミリティア王女とティトー王女の一騎打ちになる可能性が出てしまった」

「……そうですね。ミリティア王女は魔力がありませんから、ミリティア王女が本気で女王になるのであれば、紛争が起こっていても可笑しくはありませんね」


 唸るアドニスはしばし沈黙すると、親族として心配するような親の顔になった。ティトーを優しく見つめていると、マリアがその提案を話し出した。


「流石にこの話、ルゼリア側は把握していない筈よ。シュタイン将軍がティトーを男の子として育てた理由も、そこには在ると思うの。私は、すぐにでも教会で保護した方がいいと思う。でなければ、ルゼリア王家はティトーを巫女にさせることに反対してくるわ。それは教会としては本望じゃないでしょ?」

「そうですか、シュタイン様が……。確かに、おっしゃる通りです。シュタイン様ならそういうお考えでいても可笑しくはありません。我々はまだルゼリア側に何も知らせてはいませんが、巫女には問題なく選定されると考えます。何よりティトー様の瞳がそれを物語っております。ただ、巫女に選定したとなれば伝わってしまうでしょう。……体調はどうでしょうか、お二人とも」

「大丈夫だ。すぐにでも向かおう」


 レオポルトの言葉に、アドニスは申し訳なさそうに呟く。その言葉はレオポルトにある記憶を呼び覚ましたが、あまりいい過去ではない。


「その前に、瑠竜血値の測定をしなくてはいけません」

「あっ僕、まだ測ったことないです」


 その言葉に、レオポルトは俯くとアドニスを睨みつける。


「ちゃんと説明してから、計測してやって欲しい」

「……わかりました」

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