⑨-3 カンパネラは鳴り響く①
聖ニミアゼル教会の司教、アドニスの声にティトーはアルブレヒトの影へ隠れた。すぐに震えがアルブレヒトに伝わる。
「ティトー?」
「ティトー、どうした」
心配そうにのぞき込むレオポルトに、ティトーは慌てて顔を出す。ティトーはなんとか笑おうと努めている様子が見て取れ、アルブレヒトの服を掴む指先が震えている。
「いよいよかと思ったら、怖くなっちゃった」
「説明は家族である俺と、アルやマリアも一緒に聞く。ティトーを一人にはしない」
「うん」
「ティトー、ゆっくり深呼吸してみな」
「うん」
ティトーがアルブレヒトに見守られながら深呼吸をしていると、レオポルトの合図でマリアが扉を開けた。アドニス司教は一歩下がって待っており、すぐにその細目で優しく笑みを浮かべた。
「ご準備の前に押しかけてしまいましたかね」
「違うんです、僕が緊張しちゃって……」
震えは収まっているものの、アルブレヒトとレオポルトの後ろへ隠れてしまったティトーは、恥ずかしそうに前へ歩み出てきた。小さな少年に、重く圧し掛かる重圧は計り知れない。
「ふむ。怖いのは仕方ありません。見たこともない訳ですからね」
「今までずっと、非公式だったんだろ? 俺たちはその儀式に参列できるのか?」
「ええ。そのように手配させていただきました。ティトー様は幼いですからね、当日は兄であるレオポルト様に手を引いてもらって、一緒にオーブの前まで行っていただきます。その際、アルブレヒト様とマリア嬢は傍に控えていただいて構いません」
「おーぶ?」
「オーブというのは、神殿に安置されている “巫女のオーブ” というアーティファクトになります。超重要な球体ですよ、想像出来そうですか?」
アドニスは少年へわかりやすく説明して見せると、ティトーはすぐに頷いた。アドニスはその頷きに、二度頷き返し優しそうに語りかける。
「正直にいいますと、血族者なら誰でも巫女の素質はあります。君のお兄さんにも、巫女の素質はあるでしょう。しかし、その歴代の巫女の力を継承し、遺憾なく発揮。その力をめいいっぱい使う事が出来るか、という点が巫女として機能出来るのか。巫女として仕事が出来るのか、ということになるのです」
「いっぱい仕事が出来るなら、大巫女ってこと?」
「そうですよ。ティトー様は賢いですね」
「男でも巫女にはなれるんですか?」
ティトーが恐る恐る尋ねると、アドニス司教は話し出す前に二度も頷いて見せた。
「はい。ただの役職名ですからね。聖女は女性しかいませんから、聖女ではあります。とはいえ、巫女も歴代は女性しか継がれていません。君のお母さまもそうでしたよ」
「おかあさん!」
ティトーの表情が明るくなった半面、レオポルトの表情は陰ってしまった。アルブレヒトの視線にレオポルトは目配せで対応する。大丈夫だと伝わったのか、アルブレヒトはすぐにティトーへ視線を移す。
「あの……」
ずっと黙っていたマリアが挙手をすると、恐る恐るティトーのように尋ねた。
「どうされました。疑問点でも?」
「あの、サーシャ様から聞いてませんか。あ、アレクサンドラ様から…………」
「何をでしょう?」
アドニス司教は細目をより細めると、マリアを見つめた。マリアは顔を眼を泳がせながらレオポルト、そしてアルブレヒトを見つめる。
「え。聞いてないんですか…………」
「どうした、マリア?」
「マリア、はっきり言ってくれ。どうしたんだ」
マリアはティトーを見つめると、すぐに視線を逸らした。そしてまたティトーを見つめると、息を飲んでアドニス司教をじっと見つめた。
「あの。ティトーは、女の子ですけど……」
マリアの発言は予想外であり、その場の全員が凍り付いてしまった。
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