⑧-6 すれ違う想い④

「ルゼリアと戦争を、いや戦争そのものをした以上、俺がもうケーニヒスベルクへ踏み入ることは許されない。父はそう言ったが、俺はそれでもルゼリアとの戦争に、進軍を買って出た。それでも、俺はもう一度、ケーニヒスベルクをこの目でみたか」

「母なる山を、気安く呼ぶな。侵略者が」

「…………レオ。聞いてくれ、俺は」

「無理やりにフェルド国を通ってでも、ルゼリアに侵攻する意味が、大義名分でルゼリア国を攻め落とし、ケーニヒスベルクの近くに領地を広げようとでも、考えていたのか」

「違う! フェルド平原は……」


 レオポルトは引き下がらず、アルブレヒトの言葉を退けた。そのまま、啖呵を切った狐は、その咆哮を止めることなどできやしない。


「戦争の、大戦の真実は、お前たちが曲げたのが原因ではないのか。でなければ、母は……‼」

「やめなさいよ!」


 マリアがドアを開け、間に入らなければレオポルトはアルブレヒトを殴っていたであろう。飛び掛かったレオポルトの一撃に、マリアの頬を赤く染める。


「マリア!」

「お前、なんで」

「いった、いわね! このポンコツ王子!」

「…………いや、俺は」

「間合い詰めるの、苦手なのよ⁉ 私がそこまで動きが早くないの、知ってるでしょ⁉ ったく、いったいわね。あんたも、言われてばかりじゃなくて、止めなさいよ!」


 マリアは一瞬の間を置き、その単語を口にする。


「あんたたち、親友なんじゃないの⁉」



 親友。その言葉の重みを、二人は噛みしめていた筈であった。


「そんなに、あんたたちの信頼は弱いの? 殴り、殴られて。それで解決でもするの? 今、感情を表に殴り合うことで解決するのなら、殴り合わずにまた戦争でもすればいいわ。人々を巻き込み、戦乱を大きくすればいいのよ」

「マリア、頬が……」

「アルブレヒト! あんたも、軟弱になってるんじゃないわよ! ベルンハルト様も、妃であったイングリット・ゾフィー様も、妹のメリーチェだって、あんたたちの間で戦争をしていた訳じゃないでしょ! レオポルトだって、あんたはどうなのよ」

「…………」


 マリアは頬に手を当てた手を離して腰へ手を当てた。涙が多少出ているものの、頬は赤く腫れあがっている。


「そうやって、すぐに手が出る。セシュールのレオポルトは冷静さがないって、ベルンハルト様は言っていたわ! アルブレヒトの軍だけを追い続けて、早死にしないかって、いつも心配してたわよ!」

「お前、父の軍にいたのか! どこに居たのかと……。離宮に居ろって、あれほど」

「今そんな話する場面じゃないでしょう! レオポルト、あんたはアルブレヒトに依存してた。さすがに大戦経験して大人しくなったかと思えば、全然そうじゃないじゃない。あんたのは、ただの執着だわ!」


 マリアは崩れ落ちるレオポルトを、呆然とする青年を見下ろし、更に言葉を言い放つ。


「それだけの力があるのに、あんたも、アルも何をやっているの⁉ そんな事で、戦争の真実なんてわかるの? 一体何をやっていたのよ! ティトーのほうが、ずっと自分と向き合って、立派だわ!」


 ティトーという言葉が、二人を諫めるのに時間はかからなかった。

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