番外編②-10 出立と出会い①

 それから数か月後の夏。景国への留学が決まると、準備に伴い、忙しい日々を送るレオポルトだった。アンセム国からの了解を経て、レオポルトは父親のルクヴァとタウ族族長セシリアの見送りで、フェルド共和国の国境を越えた。そのフェルド平原では、アンセム国一団が出迎えの兵を寄こしていた。


「おーおー。北方の兵も屈強じゃないか」

「タウ族となんら、変わらんな」

「二人とも静かにしてください」


 レオポルトがでかい声の二人をなだめていると、赤毛の青年と金髪の美しい女性が前へ歩み出、丁寧にお辞儀を試みた。慌ててレオポルトも一礼しようとしたものの、二人の男を見習い、腕を胸に当てた、一礼する。


「アンセム国が王子、アルブレヒトです。本日はセシュール国がラダ族レオポルト様のお出迎えに馳せ参じました」

「私は、アンセム国が王の妃、イングリットです。レオポルト様はどなたでしょう?」


 首を傾げ、人のいない方向まで見つめる女性、イングリットは束ねた髪に触れながら微笑んだ。


「は、母上。レオポルト様が一番幼いので」

「まあ! アルったら、幼いだなんて。ごめんなさいね。レオポルト様」

「…………俺は、セシュールが王、ラダ族族長のルクヴァだ。あなたが噂に聞くアルブレヒト様、そしてイングリット妃か。俺は……」

「まあ! では屈強なあなたがレオポルト様?」

「セシリアである。タウ族がぁ族長のおお」

「まあそうでしたか。では、こちらの素敵な貴方が、レオポルト様ね。わかっておりましたよ、ふふふ」


 イングリットは優しい笑みを浮かべながら、緑色の帽子を出した。深緑に染められた布で作られたキャスケット帽だ。

 何故かニヤニヤしているセシリアを尻目に、ルクヴァが頭を抱えだし、セシリアは大笑いを加える。


「ヴァジュトールは今の時期、とても暑いですから」


 お礼を云ったルクヴァによって、帽子をかぶせられた。レオポルトの頭は、帽子のサイズはぴたりと合った。イングリットはお道化ることで、自身の緊張を解そうと冗談を言ったのだと、少年は心で感じ取った。


「まあ! ぴったりですわ。良かった。レオポルト様、どうかお体に気を付けて」

「母上、これからレオポルト殿を送って、我々もヴァジュトール港へいくのですよ?」

「あら。私はさすがに参れませんわ。二人で行ってらっしゃい。折角ですもの、お友達になったらいいじゃない」

「ですから、母上。父上からちゃんとヴァジュトール港まで送るように言われておりますよ。って友達って、あの」


 ド天然な発言を繰り出す母親を窘めると、ルクヴァとセシリアがイングリットと話し込みだした。アルブレヒトはレオポルトへ改めて挨拶へやってきた。背の高いアルブレヒトは屈み、手を差し出す。


「レオポルト王子、改めて初めまして。アルブレヒト・フォン・アンザインです」

「初めまして。……レオポルト・アンリ・ラダ・チェイニーです」

「…………そうか。王子という事は、君にとって辛い記憶か」


 ポツリというアルブレヒトは申し訳なさそうにすると、再び頭を深々と下げた。


「やめてください。もう、平気ですから」

「…………だが、君は怪我を」

「ああ。アンセムにも伝わっているのですね」


 レオポルトは首筋にそっと触れると、気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。すぐにアルブレヒトは申し訳ない表情を浮かべ、頭を下げた。


「すまない。無神経だった」

「いえ。ルゼリアと違って、ちゃんと報道されたのかと思っただけで」


 レオポルトはぎこちない笑みを浮かべると、首を横に振った。でなければ、アルブレヒトはまた頭を下げるだろう。


「レオポルト様……」

「様だなんて。やめてください。レオポルトで構いません」

「いや、セシュールのラダ族の大切な息子さんを預かるのです。一時的とはいえ、護衛させていただきます」

「え。護衛まで⁉ 王子は、剣や魔法が使えるのですか?」

「一通りは」

「す、凄いです!」


 レオポルトは驚きの声を上げた。その姿に照れ笑いを浮かべるアルブレヒトは、レオポルトにとっては大きく、立派な王族に見えたのだ。

 そう、堅苦しいだけのルゼリアとは違った、素晴らしい王族なのだと。

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