番外編②-9 相棒との出会い③

 レオポルトは、右眼の緑眼を、左目の蒼眼のように煌めかせる。その瞳は抜いた刃に映り込み、その呪いを写しだした。先ほどまでのレオポルトであれば、その眼を見る度に眼を刳り貫き、棄ててしまいたいと考えていた青い眼だ。その眼が、エーテルの煌めきが、刀と共鳴を果たせば果たすほど、力が湧き出る。


 少年には二つの感情が、思いが沸き上がる。


 自信と望みだ。




「だったら…………」

「だったら?」

景国けいこくへ行って、刀を振るう修行がしたいです」

「そうか、景国へ。いいじゃないか、しゅっぎょ…………」


 沈黙は、肯定とは限らない。



「はああああああああ⁉ けいこくうううううううう⁉」


 雄たけびは大地に呼応し、遠いアンセムの土地まで響いたと伝わるものの、それは伝承として100年近く語り継がれたというが、それはまた別の話である。


「お前、景国はうちの国とも、セシュール国とも国交はないぞ!」

「知っています。ルゼリアとも、国交はありませんでした」


 ルゼリアという言葉を言い放つのに、不思議と少年は怯えることはなかった。


「どうやったって無理だ。景国は!」

「ヴァジュトール島を経由すればいいのですよね?」

「そ、そりゃそうだが。ヴァジュトールは東南の南国の島で、その更に北東にあるちいせえ島が、景国だっていうが。こっからは姿も視えないぞ⁉」


 レオポルトは少し考えると、すぐに顔を上げて答えた。


「アンセム国に聞いてみましょう。あの国は、ヴァジュトール国と国交があると聞いています」

「ま、まて。アンセム国は王弟が王を引きずりおろして、情勢が不安定だ。今そんな国を頼ったり、訪れるのは……」

「恩を売れるチャンスじゃないですか。情勢が不安定なら、尚の事断れません」


 レオポルトは笑みを浮かべると、すぐに刀を見つめた。


「父へ進言します。王なのですから、アンセム国へ申請することも可能でしょう」

「いや、お前、しかし……」

「駄目でしょうか」

「うーーーん。さすがに、全民族会議を開かなきゃならん! アンセム、ヴァジュトール、景国との交渉だからな。通過するフェルドへもだ。お前、全民族会議に参加して、そこで進言できるか?」

「します! してみせます!」


 レオポルトは目を輝かせる。その瞳に、若きラダの子ルクヴァを見た男は、二度も頷いた。


「そうかぁ、わかった! 俺が明日朝一で全民会議を開かせよう」

「そんな事が出来るのですか?」

「招集は俺の役目だからな。ルクヴァは王だから、それこそ城にいるから参加せざるを得ない」

「父も参加するのですか」

「あったりめえだ。ラダの族長だからな!」


 一呼吸置き、セシリアは悪戯な笑みを浮かべてレオポルトへ迫った。


「お前、父親に進言できるのか?」

「出来ます」

「お前の父親は、族長であって、王だぞ」

「出来ます」

「ほう。良い自信じゃあないか。どうしてだ」

「僕が、ラダの子。セシュールの民だからです」


 勇ましい風が、ケーニヒスベルクを、セシュールを包み込んだ瞬間だった。


 翌日の会議では、立派に進言したレオポルトを見て、ルクヴァが王でありながら大号泣し、新聞の一面を飾った。その為に二人の仲はぎくしゃくする暇もなく、周囲から進められるがままに和解したのは言うまでもない。


 そう、ラダ族は真実を視通せる部族なのだ。



 約束のお祭りに親子で参加した姿は、人々をルゼリア・セシュール連合王国時代の終焉を謳い、喜びあった。心中複雑だったものの、レオポルトにとって祭りは忘れられないものとなったのだ。

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