番外編②-6 タウ族の村④

「お前の名は」


 セシリアは勿体ぶるように、黙り込んだ。レオポルトは恐る恐る目を開けると、目の前にセシリアの眼があった。


「うわああ」

「なんだ、元気じゃないか。そうでなくてはな! ラダの子よ! ガッハッハ!」

「ぼ、僕の名はなんだっていうんですか!」

「お前の母親に頼まれて、俺が名付けたんだ!」

「⁉」

「俺はお前の名付け親なんだ。どうだ、びっくりしたか⁉」


 びっくりして言葉にならないは、俯くと呆然を立ち尽くした。


 父親からもらった名であると聞いていたからだ。そんな筈はないと落胆する少年に、悪戯そうにセシリアが笑う。


「嘘だぞ!」

「え?」

「だから! 嘘だって! お前の名は、俺の息子と対になるように、ルクヴァが名付けたんだ! ガッハッハ、驚いたか!」

「なぁ!」


 精一杯の剣幕で迫るレオポルトをかがんで撫でまわすと、セシリアは立ち上がった。


「だが、お前はレオポルトだろ」

「…………祖父が、譲らなかった名です」

「ほう、ルゼリア王が」

「………………」

「なあ、少年」


 セシリアが声をかけたころ、ケーニヒスベルクに太陽がかかった。夕日が差し込み、ケーニヒスベルクは金色に染まる。


 セシリアはケーニヒスベルクを見つめ、眺めながらその目を眩しそうに細めた。金色のケーニヒスベルクは、なんとも思っていなかった少年にも、美しく映った。


「お前、そのままだとタウ族にもなれんぞ」

「どうしたらいいでしょうか」

「そうだなあ」


 ぐー。という音とともに、レオポルトが赤くなると、セシリアは頭をガシガシと撫でた。


「飯にしよう。お前、食えないものはあるか?」

「ありません。でも、甘いものと苦いものは、苦手です」

「そうかそうか、それでいい」


 セシリアはレオポルトを誉めると、美味しい香りのする我が家へ手招きを始めた。俯くレオポルトだったが、中からアンナが現れ、手を差し出した。


「食おうよ。母ちゃん、張り切ったから」

「ありがとう、アンナさん」

「アンナでいいよ。お前の事は、なんて呼んだらいい?」

「…………レオポルト。レオでいい」

「そうか。レオ、今日の魚は俺が捕ったんだぜ」


 中には賑やかな食事がテーブルいっぱいに広がり、魚だけでなく肉の大きな塊や野菜炒めが並び、果物を手にした母親が出迎えた。


「レオポルト、食べられるだけ食べなさい。残したって構わないよ。男は無理に食わないものだ。その方が、タウの女は、私は嬉しい」

「はい」


 レオポルトは泣きそうになるのを堪えながら、温かい食事に舌を打つのだった。

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