番外編②-4 タウ族の村②
「ラダの子よ」
残されたレオポルトに、セシリアが声をかける。周囲にはもう、二人以外誰も居ない。
「はい」
「お前、タウ族をどう思う?」
「え? いつも、ちょっとだけ騒がしいな、とは……」
恐る恐る本音を言うレオポルトを、セシリアは笑うことなく、頭を撫でた。
「皆はそうは言わん。それでは生ぬるいな。五月蠅い、黙れ、ヒッソリやれとな」
「そんな屈辱を受け、平気なのですか」
「ああ。何の問題もないな。なぜなら、それらは誉め言葉だからだ」
「なんですって?」
セシリアは頭を強めに2回叩くと、ケーニヒスベルクへ手を掲げた。
「我らは五月蠅く、騒がしく、けたたましくあるべきなのだ。何故なら、ケーニヒスベルクがそれを望んでいるからだ」
「け、ケーニヒスベルクが?」
「そうだぞ。なあ、なんでお前はアンリなんだ」
「え」
「アンリとは、女の名であろう。お前はその名で呼ばれることを望むのか? 実名の、レオポルトでなく」
その言葉に、レオポルトは口を半開きにすると、強く結んだ。
「僕は、レオポルトじゃない!」
その大きな声に、ルクヴァが、そして部族民が見守る。慌ててルクヴァが駆け寄ってくると、セシリアは手でそれを制した。
「今は我と、ラダの子との会話だ。お前が口出しをするな」
「わかった」
ルクヴァはそういうと、2歩半後退した。
「何故、そうまで偉そうなのですか。父は王ですよ⁉」
「俺が勝てば、我が王だ」
「ま、負けたんでしょう! 負けたんだったら、潔く……!」
「お前、タウの子になるか?」
「はぁ⁉」
今日一番の大声を上げたレオポルトだったが、その声に対抗するように、もう一度大きな声がこだまする。
「ラダの子、レオポルトよ! アンリとして、タウの子になるか? タウの子であるのなら、アンリという名でも思い切り剣を振るえるぞ!」
「そうだな」
間髪入れずに声が響く。
「お前、タウ族の子になれ」
「……父上?」
「お前はセシュールを、ラダの事を何もわかっていない。少しはタウ族を見習え」
腕を組み、レオポルトを冷たく見下ろした父親はそのままセシリアへ書類を手渡すと、帰路へ着こうとした。慌てて駆け寄るものの、セシリアに抱きかかえられてしまう。
「何をする、離せ!」
「父親の言った言葉が聞こえなかったのか? お前は今日からタウ族だ」
「ま、まって! 待って、父上! そんな、僕はッ」
レオポルトの声も虚しく、ルクヴァと一行は城へ帰って行ってしまった。高台から見える父親の一行は楽しそうに談笑しながら、山を駆け下りていく。
「そんな、父上……」
落胆し、ガックリ肩を落とすレオポルトに、セシリアは声をかけずにそのまま牛へ話しかけた。
「お前、いい牛だな。そうか、お前は食わずに祭りへの参加を許そう! そう、お前も我等タウ族になると? そうかそうか、さすが牛だ!」
「何を言っているのですか! 牛族だっているのに!」
「ほう。ちょっとは勉強しているじゃないか」
牛を撫でながら、セシリアは見下すようにレオポルトを睨んだ。今までになく、冷たい視線だ。
「だが、牛族も牛は食うぞ。フェルドの獣人で牛の先祖を持つものも、時として牛を喰らうが?」
「で、でも……」
「お前らとて、狐が実在していたら、狐を喰らうだろう。セシュールだけでなく、フェルドもそうである。今の時代は、そういう時代だ。だが、昔から今のようであったようだがな」
笑いながら、牛と奥へ下がっていくセシリアを、レオポルトは追いかけると立ちはだかって叫んだ。
「僕はラダの子だ! タウ族になんてならない!」
「であれば、ラダ族がなんであるのか。知るべきだな」
そういいながら牛舎へ入っていくセシリアを前に、レオポルトは涙が零れ落ちないかを必死でこらえていた。すると、セシリアの妻が駆け寄ってくる。後ろにはレオポルトより2つ上の少年が控えていた。
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