番外編②-2 やくそくのまつり②
言葉を選ぼうとする息子を見て、ルクヴァは別の本をレオポルトへ手渡した。
「これは?」
「きつねのなみだ」
「伝説の幻獣、聖獣の、我らの狐?」
「ああ。狐に関する絵本はこれしかない」
絵本と聞き、レオポルトはむっとした表情をさらに浮かべると、その本を無造作に手に取った。
「読んだことは?」
「ない、です。そもそも、絵本なんて、もう読みません」
「そうか。俺は好きなんだがな、その絵本」
ルクヴァはそう言いながら、ケーニヒスベルクへ手を掲げた。
「これから、タウ族の村を訪れる。お前も来なさい」
「僕なんかの侵入を、彼らは許さないでしょう。行きません」
「祭りに、ラダ族代表として招待されていてもか」
「それは……」
レオポルトは俯くと、その本を手に取りなおした。
「きつね、ですし。僕は伝説の聖獣、狐の部族民です。断るなんて無礼は働きません。行きます」
「ふむ……」
「それでは、支度をしてまいります」
レオポルトが自室へ向かったところで、タウ族の村から雄たけびが聞こえだした。恐らく、主はセシリアであろう。控えていた付き人が現れ、片膝をついた。
「あーもう、五月蠅い。セシリアにはコンドルでも飛ばしておいてくれ。ちょっとの連絡でも絶叫されてはたまらん」
「承知しました、ルクヴァ様。返答はいかがなさいますか」
「五月蠅い、で」
「承知しました」
付き人が下がったところで、レオポルトが見つめていた本を手に取る。
「おおかみさん、ね……。母なる山を、よくもまあ題材にしたもんだ。それでも、こうして伝わってきたのは、この絵本のおかげなんだろう。なあ、そうだろう。ケーニヒスベルクよ」
ルクヴァはそっとその本を懐へしまうと、奥へと下がっていった。
◇
タウ族の村は、ラダ族の村からは遠い。それでも、セシュール城からはほど近く、そして一番の要に存在している。それはタウ族が担う、狼族としての使命であるという。
「疲れてないか? ……アンリ」
「はい。ところで、この牛は?」
「牛を持ってこいと、さっき叫ばれたんでな」
「ええ! あの雄たけびって、父上宛だったのですか⁉ 王に対して、なんてことを」
レオポルトの憤りに、連なっていた一行は大笑いをした。レオポルトは意味が分からず、何故笑われたのかを父に問うた。
「どうして、僕が笑われたのです」
「お前が、セシュールの全部族民を勘違いしているからだ」
「か、勘違い?」
「祭りは、いい機会だったかもしれないな」
村へたどり着くと、屈強な男たちが出迎えに現れていた。遠くから雄たけびが上がり、嫌でもタウ族の村であることがわかる。
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