暁の草原 番外編② 約束のお祭り

番外編②‐1 やくそくのまつり①

 多くの賑やかな部族民によって構成されている、セシュール王国。それぞれの部族で長を決め、王決定戦、通称王戦にてセシュールの王を決める。そういう不思議な国家がセシュール国だ。


 ネリネ歴943年、レオポルトは3月で11歳になった。が、まだまだ子供だった。大けがを負い、941年に両親が離婚してから、対称の傷も、心の傷も癒えてきた。


 そして、季節は初夏、6月である。


「レオポルト」


 父親が息子の名を呼ぶものの、息子は返事を返さない。父親、ルクヴァはため息を聞こえるように吐き出すと、名を言い直した。


「アンリ」

「はい。父上」


 即座に反応し、首を垂れる息子の前には、長身の男、父親であるルクヴァが口を締めながら立っていた。


「タウ族のセシリアが、祭りへ来ないかと誘っている」

「セシリア様が?」

「ああ、約束の祭りでな。俺も参加する手筈になっているが、あくまで王としての参加だ。そこで、ラダ族からはお前をと、誘いが来ている。招待は断ることも可能だが、どうする」


 タウ族は変わった部族で、その雄たけびとおぼえは大陸中に響き渡るという。伝達の部族だと聞いている。狼を守護獣に崇めているものの、第一にケーニヒスベルク、第二にもケーニヒスベルクを置き、第三にはラダ族の守護獣、伝説の聖獣である狐を置く、摩訶不思議な一族だ。


「僕が、発言しても宜しいのですか。父上」

「何?」


 2年が経とうとはいえ、レオポルトは自身がまだセシュール国の部族民、父親の部族ラダ族の一員であるとは考えていなかった。


「僕は、魔力が高くありません。それに、瑠竜血値も、0でした」

「俺は、計測したこともないが」

「それは父上がルゼ…………。いえ、僕はもうルゼリア民じゃありませんでした」

「……レオ」

「そんな名で呼ばないでください。僕は、ラダ族である貴方から頂いたアンリ・ラダだ」


 レオポルトはむっとすると、そのまま近くの本を手に取った。偶然手に取った本は、「グリフォンとおおかみさんのやくそく」だった。


「この本、例の祭りの?」


 思わず父へ問いかけてしまったレオポルトは、顔を真っ赤にしてしまう。そんなレオポルトを見ることなく、ルクヴァは本を捲る。


「あー。それは、偏屈な作者が描いたやつだ」

「偏屈?」

「そこに出てくる、おおかみさんは、狼じゃないぞ」

「ええ! で、でも……」


 ルクヴァはページをめくると、鳴き声のシーンを指さした。


「ここに、クゥーン。とあるが、これは別に狼じゃなくたって鳴くだろう」

「それは、まあ。そうですね」

「この祭りは、元々はラダ族が仕切らなきゃいけない。ただ、一度も仕切ったことはないし、ただ招待されて参加するだけだ」

「どういう事ですか?」


 ルクヴァは腕を組むと、霊峰ケーニヒスベルクを見つめた。


「お前、ケーニヒスベルクは好きか?」

「ええ。嫌いな国民なんて居ないでしょう」


 模範解答をする息子を見て、ルクヴァは何とも言えない表情を作る。息子がこうなってしまったのは、母の国である、ルージリア城で暮らしていた時期が長すぎたせいだ。


「いや、嫌いでも国民は国民だ。お前の意見を聞いている」

「僕の? 僕の……。僕にとって、ケーニヒスベルクは……」


 レオポルトは霊峰を見つめた。青々とした山は初夏の色どりで緑に染まっている。美しい山だが、それ以上の思い入れはない。

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