⑦-13 狼煙の余波③


「これでも、まだ私が怖いお爺さんでしょうか?」


 アドニスはあえて声をかけていなかった少年へ声をかけると、ゆっくりを跪いた。


「ティトー」


 レオポルトの声に、ティトーは尚もアルブレヒトの服を引っ張る。


「どうしたんだ、ティトー。アドニスは、割といい奴だ」

「いい奴とは何ですか? 私は最初から善人をやっております!」

「うーん、かなり変な奴だが、顔を見せてやってくれ」


 アルブレヒトの言葉に、ティトーは頷いたものの、なかなか顔を上げようとしない。ベッドから起き上がろうとしたレオポルトを、アドニスは首を横に振った。


「聖ニミアゼル教会の司教、アドニスです。ですが、元をただすと、私と君は遠縁の親戚なのですよ」

「アドニスは祖母の姉の息子さんだ。最も、既に籍を外して久しいが」

「おじいちゃんでも、おじさんでも構いませんよ。ティトーさん」


 ティトーは顔を隠したままだ。


「あの」

「なんでしょうか」

「僕の事、疑わないの?」

「疑いませんよ。さあ、顔を上げて、見せてください」


 ティトーは恐る恐る顔を上げると、アルブレヒトの服の裾を掴んだまま顔を出した。



「これは、驚いた」


 暫く絶句していたアドニスは、すぐにティトーに迫ったため、ティトーはすぐにアルブレヒトの背に隠れてしまった。


「ちょ、こら、ティトー! アドニスも、あまり怖がらせないでくれ」

「その目は深淵の、王族の瞳。……間違いないでしょう。君は、ミラージュの娘、忘れ形見だ」

「ミラージュ……、お母さん!」


 ティトーは再び顔を上げると、その煌めきを放った瞳でアドニスを見つめた。アドニスの細目、瞳もまた煌めきを放つ深淵の青をしていたのだ。


「おじちゃん、僕の瞳と、おんなじ!」

「ええ、そうだからいったではありませんか。私と君は、遠縁なのですよ」

「あれ、でもお祖母ちゃんのって……。お祖母ちゃんは、王族なの?」

「そうか、ティトーは知らなかったか」


 レオポルトはティト―を手招きすると、自らが座るベッドの脇に座らせた。


「ティトーの祖母が存命の頃、祖母は女王で、今の王、祖父と結婚したんだ。だから今は代理の王。だから、お爺さんがルゼリアの代王だ」

「お祖母ちゃんが、女王様だったの?」

「そうだ。俺はもうルージリア籍を外れていたし、ほかの候補者二人は子供だったからな」

「候補者二人って、お兄ちゃん以外にも? あれ。もしかして、お兄ちゃんのほかにも、お兄ちゃんが?」

「なるほど。これは深刻なルゼリアの情報統制が見て取れます」

「感心してる場合かよ」

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