⑦-12 狼煙の余波②

 アドニスは首を横に振ると、すぐに後ろで腕を組んだ。


「ルゼリアサイドはだんまりです。当然でしょうが、知っているでしょうね。激高し、軍を動かすかもしれませんが、そんな素振りはありません」

「どういうことだ。すぐにでも攻め込んでくるものかと」


 アルブレヒトがニヤニヤしながら嫌味を言うと、呆れたようにアドニスが発言をするが、矛先はレオポルトへ向けられた。


「レオポルト殿。貴方は復興事業として、国境沿いの村にタウ族を中心とした部族民を配置しました。そして、フェルド共和国の屈強な労働者も」


 レオポルトはしたり顔を作ると、俯きながら不気味な笑みを浮かべる。


「タウ族の呼びかけがあれば、すぐにでもセシュール軍は動ける」

「それだけではありませんよ。ちゃんと復興事業が目的とはいえ、あれでは軍を敷いているのと同じではありませんか」

「ルクヴァ王、それからタウ族族長のセシリアも同意しているからな。?」


 アドニスはため息をつくと、どこからかモノクルを取り出してかけると、新聞を折りたたんでどこかへしまい込んだ。


「ラダ族とタウ族が手を組むとは、私も驚きです」

「今はな。結束しているのだよ。不思議とな」

「連合王国が解体されてから、べったりではありませんか。お陰で布教も思うようにいっておりませんよ」

「タウ族のケーニヒスベルク愛はとんでもない。俺たちも呆れているし、出来ればもう少し加減してほしいと思っている程だからな。俺たちラダ族の守護獣、狐への愛もだ」


 レオポルトがあきれた声を上げた時、玄関がノックされた。ティトーの元気のいい声が部屋まで響いてくる。


「帰ってきた。俺が出てくるよ」

「ああ、アル頼んだ」


 アルブレヒトが部屋を出ると、アドニスが屈んでレオポルトに顔を近づけた。


「無事でよかったのは、君もですよ。レオポルト・アンリ」

「アドニス、おじさん……」

「一応、遠縁ではありますが、いとこなのです。もう少し、頼ってもいいのではありませんか。君があの家から出たのだというのであれば、むしろ私とは同じではありませんか?」

「…………それは」

「あまり疑心暗鬼にならないことです。味方を失くしますよ」

「病み上がりに、あまり責めないでやってくれ」


 アルブレヒトがマリアとティトーを連れて戻ってきた。ティトーは人見知りなのか、アルブレヒトの足に隠れている。


「おお、マリア!」

「おおマリア、じゃないわよ。そんなに親しくしてたとは思ってないわ」


 マリアはそっぽを向く素振りをみせると、すぐに視線を戻した。微笑を浮かべると、マリアの方から握手を求めた。


「お元気そうで何よりです。アドニス司教。……今はまだ司教でしたね」

「ええ。まだ司教ですよ。マリア。神官にスカウトされたそうですが、どうですか?」

「お断りよ。でも、浮遊魔法の扱いについては興味があるわ」

「そうでしょう。君ならそういうと思っていました。何せ、魔法を君に教えたのは私ですからね」


 アドニスは鼻高々にすると、腰に手を当てた。その幼い仕草は、初老の司教という立場とが思えない程、飄々としている。


「あの消し炭魔法を教えたのは司教だったのか」

「レオってば、失礼ね! 何よ、消し炭魔法って!」

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