⑦-10 緋色を求めて③

「おにいちゃん、ちゃんと寝ていて。甘えちゃったけど、休んでいてよ。お願い」


 ため息をつき、俯いた兄を心配したティトーは、その真意を理解せずに休むように促した。しかし、レオポルトはそれを快く思い、笑みを浮かべながら頭を撫で、自身の帽子をティトーへ被せた。緑色のキャスケットで、やや大きい。


「大丈夫だ。エーテルが補完されている。薬草、ありがとうな。これ、ティトーにやるよ」

「おにいちゃん。ありがとう、でも、ちゃんと休んでいて?」


 ティトーはベッドへレオポルトを促し、後に引かなかった。レオポルトは観念してベッドに座ると、ティトーの頭を撫でた。


「不思議と楽なんだ。あれだけ血を吐いたというのに。きっと、ティトーのおかげだ」

「でも……」

「そうだな。一週間はここから出られないわけだ。……修行でもするか」

「もう、おにいちゃんったら!」


 レオポルトはそんなティトーを見て笑うと、すぐに口元を手で覆った。吐血を心配したティトーが慌てて駆け寄るが、レオポルトが手で制止するように動かした。


「いや、大丈夫だ。ティトーと出会ってから、よく笑うようになったと思って」

「おにいちゃん、笑わなかったの?」

「……アルにも言われたが、俺はあまり感情を表に出せなくなっていた」


 心配そうにのぞき込むティトーに、レオポルトは何度も頭を撫でた。ティトーは嬉しそうに笑みを浮かべると、ベッドに座ったレオポルトの頭を撫でだした。


「もう、大丈夫。大丈夫だよ。おにいちゃん、もっと笑って?」

「そうだな。ティトーが言うと、笑っていられるように感じる。成らぬのものも成るようだ」

「それ、アルも言ってた」

「ああ。父の、俺の父親とアルの父親の口癖だったよ。偶然同じ口癖を口にして、同盟締結の時は二人でずっと語っていたな。そこへ、母とアルの母親も混ざって……」


 懐かしそうに遠くを見つめる兄に、ティトーは普通の疑問を投げかけた。


「アルのお父さんとお母さん、どこに居るの?」

「それは」

「………………お兄ちゃん?」

「……アルの前では、絶対に話さないで欲しい。アルの両親は、戦争で亡くなっている」


 幼いながら、その衝撃を受けたティトーは後ずさりを始めると、そのままその場に崩れ落ちた。支えようとしたレオポルトの手を、ティトーはとったものの、目線を合わせようとしない。


「国もなくて、お父さんと、お母さんも?」

「ああ…………」

「そんな。いい人だったって、お兄ちゃん言っていたじゃん……」

「それだけの、戦争だったとは思えない。だからこそ、真相を確かめなくてはいけない」

「僕も、ちゃんと知りたい。何があったのか」

「ああ。ティトーも協力してほしい」

「うん」


 玄関が騒がしくなり、マリアの声が聞こえた所で、ティトーは嬉しそうに声を上げた。


「アルとマリアおねえさん、帰ってきた……」

「出迎えてやってくれ。きっと、喜ぶ」

「……うん!」



 ティトーは嬉しそうに玄関まで走っていくと、鍵を開けた音が軽い音のように聞こえた。すぐにマリアの声と、聴きなれた親友の声が耳を攫う。痺れたままの手のひらを見つめ、ギュッと手を握ると不思議と痺れを感じなくなっていく。



「そうだ。見つけなくてはいけない。母だけでなく、君の両親も、真実も」


 レオポルトは目を軽く閉じると、胸に手を当てた。そして、それを呟いた。


「初代ルゼリア王、ゲオルクに誓ってもいい。友人として、君を助けたい」




「アルブレヒト……」


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