⑦-4 再びの約束を、ここに①

 洞窟を進むために、魔法で光を照らす。ティトーも初歩魔法で使用できたはずだが、その光は捉えられてはいない。


「ティトー! 聞こえないのか、ティトー!」


 雨が止んだのか、洞窟の最深部まで来たのか、雨音は遠ざかると奥から生暖かい風の音だけが洞窟を轟かせていた。


「俺もここまで来るのは初めてだ。中はこんなことになっていたのか」


 足元に広がるのは苔や湿気を好む草花だ。茸も生えており、植物学者が知れば狂喜するだろう。絶滅したとされる草花が咲き誇っているのだ。


「そうか、神聖で正常な地を求めて、洞窟内に入り込んだのか」


 洞窟の奥にぼんやりと光が溢れだした。最深部のようだった。


「天井が、吹き抜けているはずなんだ。最深部は」



 そして、夏には草花が咲き誇る。



「あれから何年が経った。俺は、参ることもせずにいたのか、そんな時間はなかったにせよ、なんて無粋なんだ」



 最奥には丸い大きな岩が置かれており、その更に奥には更に大きな岩がある。そう、それは確かにそこにあったのだ。

 となれば、その足元に、小さな岩があるはずであるが、囲うように覆う大きな岩によって、その岩は見えないであろう。


「100年もお前は生き、俺とともに生きてくれた。そんなお前を、俺は置いていったのか」


 ティトーの姿はなく、ぼんやりと天井から光が差し込んできていた。


「頼む、居てくれ。ティトー……」


 胸に手を当てながら、アルブレヒトは岩の周りを注意深く光を照らした。そして、その小さな影を見つけたのだ。


「ティトー!」


 ティトーは蹲ると一番大きな岩陰の真後ろに寝転がっていた。自身の上着を胸に抱き、そのまま眠っている。



「ティトー! 起きるんだ、ティトー!」

「う……」

「ティトー! 良かった、大丈夫か」

「夢見てた」

「そうか、寝ていただけか。良かった」

「アルがいっぱいの白いアキレアを摘んできてくれたの。約束を守ってくれたんだね」


 ティトーはぼんやりしながら、周囲を見渡した。どうやら覚えがないようで、キョロキョロすると寝ぼけだした。

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