⑥-12 エーディエグレスの森へ②

 森は深くなる一方であるものの、奥へ行くにつれて植物の量も増えていった。白い花は無いものの、小さな背丈の植物が多く群生している。


「なあティトー。その花は、どんな花なんだ」

「うんとね、蒸れっていうの? 湿り気が多いのは苦手かな。蒸れには弱いものが多いんだ。それ以外には強くてね、暑くても寒くてもへっちゃらなの。どんな場所でも強く生きてくれるの。ちょっとの湿気ならなんともないよ」

「なるほどな。それじゃあこの過酷な大地でも根付いてくれそうだな。開花は何月からだ」

「5月だから、丁度咲いてる時期だよ」


 ティトーは迷わずに強い瞳の煌めきを放ちながら、自身の背丈ほどある草木を躱していった。アルブレヒトもなるべく蔓を掴むが、生態系を気にして引き抜くことはしない。


「そうか。丁度咲くのか」

「小さい花が細かくいっぱい咲いてね、葉っぱはすごく特徴的なの」

「特徴的?」

「花みたいにこう、虫の足みたいに、いっぱい線が引いてあってね、こう」


 ティトーは虫のつもりなのか、手足がいっぱいあるような素振りをしながら進んでいった。その光景に、アルブレヒトは一つの答えにたどり着く。


「まさか、アキレア、ヤロウか!」

「そう、アキレア! なんだ、知ってたんだ!」

「いや…………。そうか、アキレアが効く薬草だったのか」

「生えてるところ、見たことない?」


 アルブレヒトは首を横に振ると、すぐに考え込むように立ち止まった。その足取りに気づいたティトーもすぐに立ち止まった。


「もしかしたら、大地のエーテルが不十分で、開花が遅いのかもしれない。もしそうなら、俺は白い花を探していたから、見逃した可能性がある」

「ううん、ボクも見てきたけど無かったよ。戻るより、進んだほうがいい」

「そうか、わかった」


 ティトーは辺りを手をいっぱいに広げてクルリと回って見せた。


「植物、どんどん多くなってる。大丈夫、絶対あるよ!」

「そうか。お前がいうと、絶対にあるような気がする」


 その言葉に、ティトーは嬉しそうに歯を出して笑った。


「気がするんじゃないよ、あるんだよ!」

「そうだな。口に出せば、成るものも成る」

「そうだよ!」


 ティトーはそのまままた歩みだした。だが、アルブレヒトがすぐにそれを止めるように手を引っ張った。


「わわわ、どうしたの」

「それでも、少し休もう。お前が倒れたら意味がないだろう」

「でも……」

「いざとなったら、お前を置いて薬草を届けに俺だけ戻る。お前は絶対にその場を動くなよ」


 アルブレヒトは、本当は置いていくなどしたくはなかった。それでも、ティトーは泣きながらでもそれを決行させるだろう。恐らく、そういう強情さを兼ね備えているのだ。兄に、そして思い描いた人物に似ていると、アルブレヒトは嬉しくなっていた。


「うん。アキレアが見つかったら、走って戻って」

「わかった。必ず届ける。約束する」

「うん! じゃあ進もう!」

「もう少し、休め」

「ええ~」

「ほら、水飲んで」


 アルブレヒトは水筒を差し出すと、ティトーはしぶしぶ受け取った。そのままゴクゴク飲むと、すぐに水筒を差し出してきた。

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