⑥-11 エーディエグレスの森へ①

 今にも雨が降り出しそうな、湿った空気が外を包み込んでいた。ティトーは空を睨みつけると、エーディエグレスの森と反対方向へ進みだした。


「ティトー! 森はそっちじゃない、いきなりなんだよ!」

「いいの! こっち!」


 ティトーはそのまま歩み続けると、いきなり時計の町から遠ざかるように進みだした。


「どこに行くんだ! 雨が降るぞ」

「ここから! ここからエーディエグレスの森に入るの!」


 そこには獣道と呼ばれる、いわゆる動物が通った形跡のある道だった。そのまま方向的に、エーディエグレスの森に通じている。


「そうか、獣は森を知り尽くしている」

「行こう、アル! 早く!」


 ティトーは走り出しながら進もうとしたため、足を取られてすぐによろけてしまう。しかし、ティトーは近くの木につかまると、すぐに立ち上がって歩みだした。


「早く、アル!」

「ま、待て! ポイントに印をつけないと」

「そんなのいらないもん! こっち!」


 そのまま進んでいくと、すぐに上り坂がやってきた。緩やかな登り坂が続き、すぐにまた下ってゆく。そうして進んでいくと、開けた場所へと出たのだ。


「ここだ!」

「俺も探す! どんな色のだ」

「白い花だよ! ピンクもあるけれど、白がいいんだ!」

「図鑑には絵がないのか?」

エーディエグレスの森にしか咲いてないの。だから、誰も見たことがないんだ」

「なんだって、どうしてそんな花……。あれ、なんで俺、花だって」


 疑問に思いつつ、しかし立ち止まっている暇はない。アルブレヒトはティトーを気にしつつ、周辺を探し回ったが、花一つ咲いてはいない。


「ティトー、ないぞ」

「そんな筈ないんだ、ここに、


 ティトーの表情は青ざめると、煌めきを増すように涙を溜めていく。


「群生地が変わっちゃったの? そんなこと」

「そうか、大地のエーテルだ」

「大地のエーテル?」

「各地で農作物が不作だったって話したろ。ルゼリアとの国境の再会の町でも、まだまだ不作だったんだ。だから、復興事業が続いていただろう」

「ああ! そんなあ……おにいちゃん…………」


 ティトーは足に力が入らなくなったのか、そのまま崩れ落ちてしまった。距離が離れていたため、アルブレヒトが慌てて駆け寄る。見ればティトーは切り傷だらけであり、足だけでなく腕までもがボロボロだ。


「ティトー……」

「やだ。やだよ、おにいちゃん…………」

「諦めるな」


 アルブレヒトはティトーの両肩を掴むと、その瞳に訴えかけた。


「ここは、フェルド平原より近い。もし、光の影響を受けたのなら、もっと奥へ群生地を移動させた可能性だってある。植物は俺たちよりずっと賢いだろ」

「アル…………。うん、そうだね。もっと奥に行ってみよう!」

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