⑥-10 時計の町④

「え?」

「やくそう、あるの。それ、とってくる」

「ま、待て! ティトー!」


 アルブレヒトがティトーの肩を掴んだ拍子に、ティトーは転びそうによろけてしまった。慌ててアルブレヒトが抱き留めると、ティトーはすかさずにリュックから見えていた植物図鑑を指さした。


「薬草あるの。きっと良くなるから、取って来たい」

「薬草って、名前は?」

「アキ……なんとか」

「マリア、わかるか?」


 マリアは魔術の達人だが、薬草学にも通じている。アルブレヒトはそれを知っていたのだ。


「白鷺病に薬草なんて、聞いたことないけれど」

「効くの! ぼく、知ってるの!」


 ティトーはそう言うと、兄であるレオポルトへ向かって叫んだ。


「お兄ちゃん待っていて。近くの森にいっぱい生えてるの、ボク知ってるから! とってくるから! 


 ティトーはそういうと、アルブレヒトの手を躱して玄関へ向かった。


「森って……まさか、エーディエグレスの森か⁉」

「駄目よ、ティトー! 午後から雨なのよ⁉ レオが言ってたじゃない」

「だめ、すぐ行かなきゃ!」


 ティトーに追いついたアルブレヒトが、ティトーの服を引っ張り腕を握った。


「痛い、痛いよ、アル! 離して」

「駄目だ、エーディエグレスの森は迷いの森なんだ! 入ったら、誰も出てこれないんだぞ」

「大丈夫だもん! そんな場所じゃないもん!」

「ティトー……」


 ティトーはアルブレヒトの手を振りほどくと、そのまま対峙した。小さな体を張り、外を指さした。


「ボクを信じてよ、アル! すぐにとってくるから!」

「…………だが、危険だ」

「一緒に行ったらいいじゃない」


 マリアは腰に手を当て、外を親指で指し示すと笑みを浮かべた。


「レオのことは、私をサーシャが交代で見るわ。大丈夫、ナターシャさんもいるから、手厚い看護よ」

「そうですね。私も微力ながら、サポート致します」

「義兄様、ティトーちゃんを信じてあげて下さい」


 女性三人が睨みつけるように大男を見つめると、ついに男も観念した。すぐにティトーに向き合うと、待つように指示を出した。


「森に入るなら、それ相応の装備がいる。少し待て、すぐ支度する」

「アル……! ありがとう!」

「いや、レオは俺にとって親友だ。出来る事があるなら、何かしたい。お前に賭けよう、ティトー」


「うん!」


 ――――大きな月の幻影が、暗い雲に覆われ始めていた。

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