⑥-9 時計の町③

 長い時間が経過したような、鬱蒼とした時間だけが足早に過ぎ去っていく。



「サーシャ、安定してきているから、法術を緩めて」

「わかりました」

「あまり活性化させると、返って酷くなるかもしれない。白鷺病の知識は、聞いたくらいしかないけれど」

「エーテルを喰らうからな」


 レオポルトが掠れ声を出すと、ティトーは涙を零したまま床へ縋り付いた。アルブレヒトが慌てて抱えると、ティトーは泣き崩れた。


「ティトーは、知っていたのか」

「うう。今朝、知ったの」

「ティトーを責めないでくれ。マリア、もういい。落ち着いた」

「でも……」


 立ち上がろうとしたが、すぐに力なく崩れ落ち、マリアが体を支える。


「おにいちゃあん!」

「アル、ベッドへ」

「わかった」

「ゆっくり、頭をなるべく揺らさないように。そう、そうよ。ゆっくり」


 ベッドに横たわらせ、すぐにサーシャが額に手を当てる。が、表情は硬い。


「エーテルがこんなにも不安定だなんて」

「ぼぼぼく、コア視えないよ」

「そういう不安定とは違うの。なんていうか……」

「エーテルが0になると、人は生きていけないのですわ、ティトーちゃん」


 サーシャがいつになく真剣に、重い口調で説明した。サーシャの手はまだレオポルトの額に掲げられている。


「おい、サーシャ」

「ティトーちゃんは、レオポルト様の家族でしょう」

「それは……」


 アルブレヒトはハッとすると、ナターシャを気にするようにサーシャを見つめた。驚いた顔をしたのはナターシャだった。そう、一行はレオポルトの名を呼んでいたのだ。


 ナターシャは一歩前へ出ると、深々と頭を下げた。


「皆さんも、どうか心配しないで下さい。私は彼女を、二人の時はサーシャ、ナータと呼ぶ間柄です。何かございましたら、遠慮なく私を頼って下さい」

「まさかサーシャ」

「ナターシャ、ナータは教会で私にとって、地元からついてきてくれた唯一の親友です。義兄様のことも、殿下のことも他言するような人間ではありませんわ」


 サーシャの言葉に、ナターシャも強く頷いた。


「サーシャが来れない時は、私が伝言役を承ります。どうか、他の者にはお気を付け下さい。アレクも新人ですので、お願い致します」

「すまない。迷惑をかける」

「いいえ。殿下の生存を、私も願っておりましたから。この方が、レオポルト・ラダ様だったのですね」

「ああ」


 レオポルトの青ざめた表情を見て、親友の危険な状態で何もできない無力を呪うしかなかった。それはその場の全員が感じていた事だった。


「そうか。なあ、マリアどうしたらいいんだ」

「どうしたらって、私も医者じゃないから、応急処置は出来るけれど、聞いた通り白鷺病は活性化しているエーテルを喰らうのよ」

「治癒術を今行使しても、衰弱した体に活性化した自己エーテルが満ちりますので、危険なのです」


 ティトーは俯くとアルブレヒトの服の裾をギュッと掴んだ。肩を抱き寄せられたものの、涙は止まらずに流れる。


「や、やくそう」

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