〇番外編1-7 まるで、御伽話のように①

 次の日、マルティーニ家は大騒動になっていた。マリアが屋敷に戻らず、長のアバンジャとキコナ、そしてマーシャが王城へ呼び出されたのだ。マーシャは威張り散らしながら、王城の門をくぐったが、両親の表情は重い。


「陛下、これはどういうことですか」

「うちの娘が申し訳ありません。を厳しくしていたつもりでした」


 両親が頭を下げる中、甲斐甲斐しく首を垂れるマーシャは、マリアがいないことに腹を立てていた。


「厳しくしていたのですか?」


 王妃の言葉に、アバンジャは手を掲げて身振り手振りを大きくした。


「それはもう。心に鞭打つ覚悟でした! 娘は牢獄でしょうか」

「牢獄? 何か勘違いをしていないかね」


 王が兵士に合図を出すと、兵はすぐに下がっていった。


「いえ、ですが。マリアのことでしょう」

「そう、そのマリア嬢なんだが」


 王が席を立ち、3者の眼下までやってくると、長のアバンジャに手を差し出した。握手を求めるわけでもなく、ただ身振り手振りのようだ。


「アンセム国が王子、アルブレヒト様がマリア嬢を痛く気に入りましてね。このままアンセム国へ連れて帰りたいと仰るのだが」

「へ!?」

「は!?」


 マーシャが声を上げた瞬間、母親のキコナがマーシャの腕をつかみ、首を横に振った。マーシャは鼻息を荒くすると、そのまま王を見つめなおした。


「連れて帰りたいって、どういうことですか」

「嫁に、とのことじゃが。マーシャ嬢」

「なんですって、あの汚い子が!?」

「マーシャ、やめなさい」

「ふむ。厳しく躾られているようには見えませんわね」


 王妃の言葉に、流石のマーシャの表情も止まった。マーシャは鼻息を鳴らしてしまい、顔を真っ赤に染め上げた。


「それで、マリアは今どこに」

「アルブレヒト殿下と親しくお話されております。うちの王子たちと一緒にね」

「それで、その。すぐにというと、帰国に合わせてと?」

「そうなんじゃ。無理を承知で言うのじゃが」

「滅相もありません! すぐにでも!」


 胡麻をするようにしたり顔をするアバンジャは、王家に恩を売れるとも考え、一石二鳥どころではない算段を始めていた。


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