〇番外編1-8 まるで、御伽噺のように②
「本当に、連れて行っていただけるのですか」
新年が明けて春になった頃、マリアは半信半疑で船に乗り込むと、自分のものではなかった荷物を積み込む作業を見つめていた。到着するころには、マリアは13歳の誕生日を迎える。
「約束は違えないさ。俺は君を助けたいだけじゃない」
アルブレヒトはそういいながら、上着をマリアに羽織らせた。風は春とはいえ、強く、そして寒さが身に染みる。それでも、マリアにとって暖かく、居心地のいい船上は快適に過ごせている。
「アンセムは北国だから、すごく寒いと思うが、まだ薄着だな」
「私、雪なんて見たことがなくて。そんなに寒いのですか」
「そりゃ、寒いよ。それより、その敬語は辞めてほしいな」
「腐っても王子なんでしょう。私はあんまり」
そういいながら、マリアは右手で左腕を掴むと、様々な感情を噛み殺した。
「寒いのだけは、我慢ならないぞ」
「暑いのだって同じだわ」
アルブレヒトは言い返されたのを嬉しそうに笑うと、マリアは恥ずかしそうに口に手を当てた。
船が出向しても、港に家族が現れることはなく、王族関係者が首を垂れているだけであった。その光景を眺めながら、マリアはポツリとつぶやいた。
「どうして、私が虐待されてるってわかったのですか」
「なんとなくかな」
「そんな曖昧なことで……。大丈夫なんですか。それに
「俺はいいよ。政略的な事はよくあるからな。君こそいいのか」
「私、恋愛なんてまだ興味ないし。助けてくれる人なんて、現れるわけがないって、ずっと思っていたもの」
「それに、私は汚いから」
「だったら、綺麗になれるように努力したらいい」
アルブレヒトはそういうと、手をマリアへ差し伸べ、寒いから甲板ではなく客室へとマリアを促した。春の海であるため、それなりに波は高い。
「そういう時は、汚くなんてない、っていうものじゃないの」
差し伸べられた手を掴むことなく、マリアは甲板を後にしようとした。大きく船が揺らぐ。
「君は自信がないんだろう。だったら、自信が持てるまで色々勉強したらいい。俺の母だったり、先生だったり。先生より、母のほうが厳しいかもしれない」
「出来るのかな、私。それに、長子で王子なら将来、妃ってことで…………キャッ」
マリアがよろけた所を、アルブレヒトが支えるように手をかけた。マリアもとっさにその手を掴んだものの、すぐに赤面して離してしまった。
「嫌なら、別に断ったっていいんだ。そう言っただろう。俺にそういう気はないから、アンセム国に着いたら好きに仕事をしたらいい」
「仕事ってあのね。それだと、私がアンセム国で行き場を失うじゃない。ひどいわ」
「そんなことにはならない。まずは、妹の友人になって欲しいんだと言ったじゃないか」
「そうだけど」
マリアは自身の太ましい妹を思い浮かべた。あまりもう、思い出したくはない。
「まだ9歳なんだ」
「そう、私の妹と同じだったのね。……仲良くしたいな、私友達いなかったから」
「友達になればいいさ。願っていなければ、成るものも成らぬという」
マリアはアルブレヒトの妹と姉妹になってしまい、お姉さまと呼ばれる日々になってしまったため、友人になることは叶わなくなった。それでも、良い義両親とともに、マリアはアンセム国で生きていくのだ。その話はまた後日。
―暁の草原 番外編1、完―
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