④-10 バルカローラ②

「ぴぎゃああああああああああ」


 朝の森に少年の悲鳴がこだましたころ、グリットは兎を串焼きにすると調理を完了して焼きだしていた。



「せっがく、ぢりょう、ぢたのに!」

「同じ兎じゃないって言っても、駄目なんだろうな」

「こいつ、本当に俺の弟か?」

「ぴぎゃああああああああああああああああああああ」



 更にもう一度、悲鳴が上がったところで、ティトーは涙を袖で拭うと、感謝の言葉を唱えた。


「ごめんなさい、グリットさんがこんなひどい事を。ありがとう、兎さん。命を戴きます」

「お前、俺を何だと思ってんだ」

「ロリコン」


 兎肉を頬張りながら、アンリが言い放ったために、グリットは飲みかけのスープを吹き出した。


「お前それ、意味わかってんのかよ!」

「知らないが、父は君の事を、よくそう呼んでいた」

「くっそ。親父さんめ……」


 ティトーは涙を流しながら、もくもくと兎の肉を頬張っている。夢中に食べだした姿を見ると、アンリはグリットへ声を掛ける。


「本当に、親父には何も言っていないんだな」

「ああ。何も言っていないよ」

「あのタウ族は」

「あいつも復興事業で、ずっと再会の町にいるんだろう? 無理だ」

「そうか」


 ティトーは会話は聞こえていたものの、兎の柔らかなお肉に舌鼓を打ちつつ、ごめんなさいを唱えるのに必死であった。




 ◇


「この後はどこにいくんですか!」


 兎肉を頬張ったティトーは目を輝かせながら、地団駄を踏んだ。


「早く行くですよー!!」

「ティトー、手をこれで拭きなさい。まずはメサイア、鐘の町へ向かう」

「拭きましたです!! あの! 地図を見てもいいですか」

「俺が見せる」


 グリットは地図を広げると、現在地の森を指さした。ここからはまだもう一泊程すると、鐘の町に到着するという。


「ルゼリアと違って、セシュールは町と町が離れているんだ」

「どうしてなの?」

「魔物が出るからなんだ」

「でも、エーテルが不安定なだけなんだよ」


 ティトーは荷物を持ちながら、不安を漏らした。少年は当たり前のことを云っただけだったのだ。


「そうだな。でも、ティトーは全部の魔物をすぐに治せないだろう」


 ティトーはしょんぼりすると、兄アンリへ助けを求めた。


「またすぐに気を失うぞ」

「ガーン! で、でも他に出来る人はいないの? 聖女さまとか。聖女っていうくらいなんだから、慈愛に満ちた人なんでしょう?」

「法術では、魔物は浄化されて消滅してしまうだろう」

「あ」


 ティトーは立ち止まると、悲しそうにガッカリして項垂れてしまった。


「だから、巫女なんだね」

「そうだ。それでも、今は巫女が不在なんだ」


 前を歩きだし、ティトーは振り返りながら二人を見据えた。力強い、目線を添えて。


「僕が選定されていないから?」

「そうなのかもしれない」


 グリットは俯きながら、しかしティトーから目線を外せずに話したが、ティトーは怯むことは無い。


「お兄様は、出来ないの?」

「俺はそこまで、法術も治癒の力の強くないんだ。巫女選定の儀は受けたが、能力不足だと言われている」

「でも、お兄様は凄くお強いのに!」


 ティトーは剣を抜く仕草を真似ると、えいえいやー!と元気よく発言したが、アンリは笑えなかった。


「俺は、瑠竜血値が0なんだ」

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