④-7 在りし日の面影③

 と心地の良い木片が燃える音が耳に響く。辺りは薄暗く、そして赤い炎が揺らめいていた。


 少年ティトーは目を覚ましたが、体が重くて動けずにいた。すぐそばにいる見慣れたグリットと、兄と呼んでいいのか迷うアンリが居る。


「何も話していないのか」


 アンリは悲しそうな、感情を押し殺したような声色で訪ねている。尋ねられた男は、何も答えようとはしない。


「君がそうなら、僕に出来る事はないな」


 と轟く音だけが、グリットの返答として返ってきているようだった。アンリは返答を理解しているようで、そのまま話を続けている。


「鐘の町を通って、アドニス司教に会おう」

「…………司教は、信用できるのか」

「司教に懐いているのは、君の方だろう。グリット」

「別に懐いているわけじゃ」


 グリットはおぼろげに目を開けてぼんやりしているティトーと目が合うと、すぐに近寄ってきて屈むと優しく額を撫でた。


「気付いたか」


 パチパチと火が勢いよく音を鳴らし、アンリが木片を魔法で動かし始めた。目線はそれでも、ティトーの方へ向いている。


「ぼんやりする」

「また起きていたのに、声も上げずに盗み聞ぎしていたか」

「アンリ!」

「アンリ様だろう、グリット。雇い主は誰だ」

「お前なあ……」

「ううん。黙っていたのは僕だから」


 ティトーはそういうと、グリットの腕の力を借りてゆっくりと起き上がった。すぐにが、グリットが上手く支えている。


「ありがとう」

「いや。それより、体は大丈夫か」

「うん。怪我の治療って、結構エーテルを使うんだね」

「そんなことは無い」


 アンリは吐き捨てると、直ぐに言葉をつづけた。


「お前が軟弱なんだ」

「アンリ! ティトーは、まだ六歳で……」

「年齢なんて関係ないだろう。内に秘めたる力がそれだけあって、何故」

「アンリ…………」


 アンリは静かに立ち上がると、ティトーの元へ歩んできて屈んだ。表情は言葉とは裏腹に優しく、痛々しい程に微笑んでいる。


「ティトー。その力は、沢山の人が欲しがっても手に入れられない力なんだ」

「…………治癒? と、法術?」

「そうだ」

「どうして、僕なんかが」

「………………もし、君の母上が俺と同じなら、ティトーはもしかしたら巫女の素質があるかもしれない」

「み、こ?」


 ティトーは首を傾げた。ルゼリア領内で聞いたことがあるのだ。それでも、詳しい事などは何一つと知らなかった。


「俺の母は、巫女。それも大巫女だったんだ。巫女は治癒術を使い、教会の聖女は法術を使うんだ。その上位の存在が、大巫女なんだ」

「治癒は自然治癒力を高める補佐、支援魔法に近いんだ。逆に治癒法術となると、女神に祈りを捧げて女神の力を借りて他者を癒す」

「じゃあ僕は、どっちも使えてる、ってこと?」

「そうなる」

「おおみこ……。僕に巫女の素質があったら、どうなるの?」


 アンリは先ほどのように、優しく痛々しく微笑むと自身の胸を掴むように、祈るように首を垂れた。


「巫女選定の儀を、受けることが出来る」

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