④-6 在りし日の面影②
小さな兎は怯えながらも、ティトーを見据えている。
「大丈夫です。お薬です。染みますよ」
鳴き声なく、苦痛を訴える兎はそのまま添え木を施されると立ち上がった。
「怪我のコアが視えます。この子も、治せるかも」
ティトーは呟くと、両手を傷口へ重ねた。
「怪我の……コア…………?」
アンリの呟きに、グリットは周囲を警戒した上で、彼にだけ聞こえるように囁いた。
「恐らく、ミラ様と同じなんだ。あ、魔物のコアが見えるのはラダ族だって、ティトーに言うなよ」
「…………修行ということか、なるほど」
ティトーは金色に輝く光を手に収めると、その光を兎へと向けた。
「ヒールじゃないから、痛みもすぐ引くし、傷口が開きやすくもならないよ。こ、こわいかな。大丈夫? どう、あったかい?」
兎は心地よさそうに目を閉じると、金色の光の泡が傷口へ集まってゆく。それと同時に飛び跳ねて円を描くように走って見せた。
「よかった! 治ったよ! グリットさん、アンリさん!」
「すごいぞ、ティトー! またさん付けに戻ったな!」
グリットはティトーを抱き上げると、ティトーの体を上へ挙げて
「わわ、なんだよ! グリットっては!」
「完璧な治癒法術だったぞ!」
「治癒法術……? あ、兎さん、しばらくは栄養をしっかり取ってね! そのお花、わかる? 栄養のあるお花だから、暫くの間は優先的に食べてみてね!」
兎は一礼すると、そのまま野山を駆けていった。見えなくなる頃には、グリットはティトーを地面へおろしてやった。ティトーはバランスを崩し、尻餅をつきかけたが、アンリが体を支えた。
「あ。ありがとうございます! アンリさん!」
「お前、其の力はどうやったんだ」
「え?」
アンリはティトーへ目線を合わせるように屈むと、ティトーのか両肩を掴んだ。
「法術は、本来は教会に属する、祈りを捧げた者だけが行使できる力なんだ」
「え、はい。女神様の魔法ですよね」
「そうだ。治癒魔法、いや治癒法術がどういう原理なのかは、知っているか?」
「えっとまず、治癒魔法は……」
ティトーは首をかしげながら、遠くを見つめるように瞳を虚ろに変えた。
「地の獅子様と、水の蛇様に感謝をして、それから……」
ティトーは虚ろいでゆく瞳のまま、ポツリポツリと言葉を零した。
「ケーニヒスベルクのご加護を。そして……」
そのまま、ティトーは気を失うとアンリに抱きかかえられて力尽きた。アンリは無言でティトーを睨みつけるものの、その眼は愛情に満ちた心配の眼差しだった。グリットも思いつめた表情で天を揺らぐ月を睨みつけていた。
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