④-5 在りし日の面影①

「おい、あいつは、本当に俺の弟か」

「らしいですよ、お兄さん」


 焦茶色の長身男グリットと、薄い栗色の青年アンリ。二人の目の前には、兎の魔物に追いかけられ、半泣きの少年が居た。


「ばびばば……!! 二人とも見てないで助けてー!!」

「ティトー、コアを見るんだ。お前にしか見えないっていったろ」

「こここここ、コアって、あ! これ!?」


 ティトーは頭をかじられながら、なんとか兎の魔物を振りほどいた。


「はぁ。仕方ないな」


 アンリは前へ出ると水の簡易魔法を唱えた。


「ヘヴィ・ミスト!」


 兎の魔物に重圧がかかり、動きが鈍くなった。間一髪、ティトーのすぐ前を魔物の爪が通る。


「ひひゃー」

「ほら、これで敵は動きが鈍くなった。というより、もう衰弱していて攻撃する必要もないな。……グリット、今までどうやって平定してきたんだ?」


 アンリは耐えかねると、雇い主でありながら雇われた傭兵に問うた。傭兵は黙って頷くと、ティトーに支援の援護魔法を唱えた。


「ティトー、頑張れ」

「ううう……」

「うん? お前、風詠みが分からないのか」


 ティトーは兎の魔物を睨みつけ、目を凝らして見ようとしている。


「か、風詠み? 色のですか」

「詠めてはいるのか」

「アンリ、教えられるか?」

「そうだな……」


 アンリは目を閉じると、風の圧を平定するように浄化し始めた。


「ここは森だから、他の動植物や大気のコア、そのエーテルが魔物によってエーテルが乱されている。ティトーはそれに引っ張られ、まともなエーテルが視えていない。見えるものは魔物の、空気の圧であって、現実ではない」

「な、なんだってー? わかんないよおおおお」


 ティトーは尚も焦るが、兎の魔物も焦っており、水の圧から抜け出そうとしている。


「魔物の気に、エーテルに囚われるな。魔物の真髄を、元の兎の心を視るんだ」

「も、もとの……。あっ黄色の!」

「ティトー、偉いぞ! それがコアだ。わかるか? なんのエーテルが不安定だ」


 ティトーは内から温かな金色の光を感じ取り、懐かしさを覚えながら昂る心を抑え込んだ。


「風と地が強くて、水と火が不足しています! あ、だから水圧の魔法で安定して見えたんだ!!」

「よし、いいぞ。ティトー! その調子だ」

「水は囁かだが、俺が補おう」

「頼むぞ、アンリ。俺は炎の平定を加減しよう」


 グリットは剣を片手に、空いた片手で魔法の詠唱を始めた。アンリは詠唱の必要がないのか、グリットの詠唱に合わせて唱えた。


「水の平定……」

「炎の平定!」


 二人の魔法によって、魔物は大人しくなると傷口が開いて出血を始めた。


「大変!」


 ティトーは駆け寄ると、近くの白い花を手で揉むと、ゆっくりと、兎へ近づいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る