④-4 ちいさな花との出会い④
ティトーは
「お兄ちゃんって呼んだ方が、自然だと思いませんか」
「!!?!?!??!?!?!?」
アンリは頭を抱えると、背後を向いてその場にうずくまった。少年の期待の上目遣いの眼差しは、冷たいアンリの視線を貫いてしまったのだ。
「………………ッ!」
「あー。丁度髪色も似てるし、いけるじゃあないか」
「グリット、君は!」
「いや、だって。俺たちの都合だし」
「そ、それは……」
「だ、だめ?」
ティトーは見上げた眼差しの煌めきを使った!
アンリの精神的壁にクリティカルヒット!
ティトーは瞳に涙を浮かべると、瞳を煌めかせながら泣きだしそうになってしまったが、アンリはすぐにティトーへ手を差し出した。アンリの手には、白いハンカチが握られている。
ティトーは少し間を置き、そのハンカチを手に取ると優しく抱きしめた。
「お兄ちゃんの匂いがする」
「!?!??!?!?!??!?!?!?」
「あー。ティトーそのくらいにしておいてやってくれ」
「えっ! ごごごごごめんなさい。変なことしましたか」
「いいいいいいや、違うんだ。ここここれには、わわわけがあって」
アンリは分かりやすい動揺をしながら、頬を赤面させると、ティトーの頭を優しく撫でまわした。
「照れるだろう。……そんな風に呼ばれたのは、初めてなんだ」
アンリも瞳を潤ませて煌めかせると、ティトーをゆっくりと強く抱きしめた。ティトーは堪えていた涙が全て頬を伝っていき、ついに声を出して泣き出してしまった。
そうして、再会の夜は更けていったのだった――――。
◆
星空の煌めく夜であった。月の幻影が目立たない程の、美しい夜だ。
霊峰ケーニヒスベルクからの穏かな風が、締め切られた窓から柔らかく入るかのような夜であった。
少年は泣き疲れて眠り、グリットは傍で少年を見守りながら眠りについた。
グリットが眠りから覚め、アンリと交代するころには、アンリの髪色は白銀に戻っており、眼帯を外していた。
眼帯のあった右目は、青く深淵のごときブルーサファイアの煌めきで、星空に負けぬ煌めきを放っているのだ。
「悪い、起したか」
「いや。もう交代しよう。お前も少し休んだ方がいい」
「ティトーは、うん。眠っているね」
「ああ。今度こそ、ぐっすりみたいだな」
「お前はこの子をどう思う。信じるか」
グリットはアンリの煌めきを眺めつつ、ティトーに向き直ると優しく頭を撫でた。ティトーは嬉しそうに微笑むと、そのまま寝息を立てた。
「愚問か」
アンリは返答を待つのを諦めると、ベッドへ横になった。それでも、頭はハッキリとしている。そして、別の質問に代えることにした。
「昔話していた銀時計の女……」
「この子の前で、その話はやめてくれ」
間髪入れずに、
「お前は大丈夫なのか」
心配の声を挙げる事だけが、今の主人に出来ることであるのだ。
「気が狂いそうだよ」
雇われた男は、吐き捨てるように言葉を紡ぐと、窓の外を眺めた。カーテンの向こうには、満天の星空が臨んでいる。
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