④-4 ちいさな花との出会い④


 ティトーはしながら、アンリの前まで三歩出ると、アンリへ向かって、キラキラと期待の眼差しの煌めきを向けた。


「お兄ちゃんって呼んだ方が、自然だと思いませんか」

「!!?!?!??!?!?!?」


 アンリは頭を抱えると、背後を向いてその場にうずくまった。少年の期待の上目遣いの眼差しは、冷たいアンリの視線を貫いてしまったのだ。


「………………ッ!」

「あー。丁度髪色も似てるし、いけるじゃあないか」

「グリット、君は!」

「いや、だって。俺たちの都合だし」

「そ、それは……」

「だ、だめ?」


 ティトーは見上げた眼差しの煌めきを使った!


 アンリの精神的壁にクリティカルヒット!



 ティトーは瞳に涙を浮かべると、瞳を煌めかせながら泣きだしそうになってしまったが、アンリはすぐにティトーへ手を差し出した。アンリの手には、白いハンカチが握られている。


 ティトーは少し間を置き、そのハンカチを手に取ると優しく抱きしめた。


「お兄ちゃんの匂いがする」

「!?!??!?!?!??!?!?!?」

「あー。ティトーそのくらいにしておいてやってくれ」

「えっ! ごごごごごめんなさい。変なことしましたか」

「いいいいいいや、違うんだ。ここここれには、わわわけがあって」


 アンリは分かりやすい動揺をしながら、頬を赤面させると、ティトーの頭を優しく撫でまわした。


「照れるだろう。……そんな風に呼ばれたのは、初めてなんだ」


 アンリも瞳を潤ませて煌めかせると、ティトーをゆっくりと強く抱きしめた。ティトーは堪えていた涙が全て頬を伝っていき、ついに声を出して泣き出してしまった。


 そうして、再会の夜は更けていったのだった――――。





 星空の煌めく夜であった。月の幻影が目立たない程の、美しい夜だ。

 霊峰ケーニヒスベルクからの穏かな風が、締め切られた窓から柔らかく入るかのような夜であった。


 少年は泣き疲れて眠り、グリットは傍で少年を見守りながら眠りについた。

 グリットが眠りから覚め、アンリと交代するころには、アンリの髪色は白銀に戻っており、眼帯を外していた。


 眼帯のあった右目は、青く深淵のごときブルーサファイアの煌めきで、星空に負けぬ煌めきを放っているのだ。


「悪い、起したか」

「いや。もう交代しよう。お前も少し休んだ方がいい」

「ティトーは、うん。眠っているね」

「ああ。今度こそ、ぐっすりみたいだな」

「お前はこの子をどう思う。信じるか」


 グリットはアンリの煌めきを眺めつつ、ティトーに向き直ると優しく頭を撫でた。ティトーは嬉しそうに微笑むと、そのまま寝息を立てた。


「愚問か」


 アンリは返答を待つのを諦めると、ベッドへ横になった。それでも、頭はハッキリとしている。そして、別の質問に代えることにした。


「昔話していた銀時計の女……」

「この子の前で、その話はやめてくれ」


 間髪入れずに、な返答が返ってくる。それ以上踏み込むことは、アンリにも出来なかった。


「お前は大丈夫なのか」


 心配の声を挙げる事だけが、今の主人に出来ることであるのだ。


「気が狂いそうだよ」


 雇われた男は、吐き捨てるように言葉を紡ぐと、窓の外を眺めた。カーテンの向こうには、満天の星空が臨んでいる。

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